meganebu

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Route G+

A5/48P/400円
捏造ゾディアック小説本

 

実月個人誌。(表紙:仲村)
「Zodiac sign」のGeminiルートっぽいものを全力で捏造妄想した小説本です。
ゲストに樟木柚哉様をお迎えしています。

公式ドラマCD発売以前に発行した本の内容に、サイト掲載済みの小話を追加した再販版になります。
 そのため、公式ドラマCDの内容には準拠していません。

本文サンプルは続きから。

 

 

◆「Route G+」本文サンプル



 ふと、見覚えのある人影を認めて、足を止めた。
「今のは……」
 振り返り、歩き去るその姿を目で追う。間違いない。
 昨日、下調べを兼ねて美術館を訪れた際、偶然出会った少女だ。
(……偶然、と言うには色々と衝撃的ではあったけど、ね)


***


 昨日――この星月美術館を訪れたのは、警備状況や逃走ルートなどを一通り確認するためだった。
 館内をざっと見て回り、その後は人気のない美術館の裏手へ。山が近いこともあって木々が生い茂っており、逃走時の隠れ蓑としては申し分ないように思えた。
 問題はなさそうだと判断して引き返そうとしたその時、ひどく懐かしい音階を聞いた気がした。
 空耳か、聞き違いか。可能性を否定するべく、周囲を見渡しつつ耳を澄ませる。
「きゃあっ!」
 だが聞こえたのはそんな可愛らしい悲鳴と、がさがさという葉擦れの音だった。思わず見上げた時には、頭上から悲鳴の主が降ってくる所で――
 自分は曲がりなりにも怪盗集団Zodiacの一員であり、それなりの身体能力は持ち合わせているつもりだ。
 だから、落下してきた彼女の下敷きになってしまったのは、聞こえた音階の方に気を取られていて反応が遅れたせいであって、本来ならば避けることも、抱き留めることだって可能だった。……はずだ。
「本当にごめんなさい!」
 自分の上から退くなり少女は平謝りを始めた。
 下げ続けている頭を上げさせると、それなりに顔立ちの整った可愛らしい子だとわかる。
 と、乱れた長い髪に葉っぱがくっついているのに気付いた。取ろうと手を伸ばすと、自然な動きで避けられる。
 ……まあ、警戒する気持ちはわからないでもないけれど、ちょっと傷ついた。
 見れば、彼女の方もしまった、という顔になっている。これに付け込まない手はないだろう。
「ねえ君。良かったら、僕とお茶に付き合ってくれない?」
「え?」
「少しでいいんだ。君の時間を僕にくれないかな。お詫びのつもりでさ」
 半ば押し切る形で承諾を取り、近くの喫茶店に移動する。
 彼女は「夜久月子」と名乗った。
 適当な偽名を使おうと思ったが、考えるのも面倒だし、さっきから恐縮されっぱなしなのも居心地が悪い。
 なので、あえて下の名前だけを告げた。
「郁さん、ですか」
 呼び捨てでいいよと付け加えたが、結局「さん付け」にされてしまった。まあ、少しは堅苦しさが抜けた気がするのでよしとする。
「ところで、月子ちゃんはあんな所で何をしてたの?」
 彼女を誘ったのは何も興味本位というわけじゃない。
 美術館関係者ですら足を踏み入れそうにもない場所の、それも木の上で、彼女は何かをしていたのだ。疑っておくに越したことはないだろう。
 そして、何より――聞き覚えのある、誰も知らないはずのメロディ。
「さっきの木に、降りられなくなっていた猫がいたんです。助けてあげようと思って木に登ったら、私にびっくりしてその勢いで自分で降りて行っちゃって」
「へえ、優しいんだね。それで、今度は君の方が降りられなくなった、ってことかな」
「ち、違います。さっきのは、その……降りようとしたら急に携帯が鳴って驚いちゃって、それで……」
「――携帯?」
 自分が聞いたのは、彼女の携帯の着信音だったということだろうか。
「ねえ、月子ちゃん。君の携帯の着メロ、聞かせてもらってもいいかな」
「着メロをですか?」
「うん。君が落ちてくる直前、何かのメロディを聞いた気がしてね。何の曲だったか、さっきから気になってたんだ」
「いいですけど……でも、有名な曲とかじゃないですよ?」
「あれ、そうなの?」
 空々しく聞き返すと、取り出した携帯を操作しながら、彼女が説明してくれた。
「友達がよく口ずさんでた歌なんですけど、聞いてるうちに気に入っちゃって……そしたら、元の歌は持ってないからって、メロディだけのものを作ってくれたんです」
 どうぞ、と操作を終えたらしい携帯が差し出された。
 小さく息を呑み、ゆっくりと手を伸ばしていく。
 そうしてようやく、震える指先を触れさせたところで、突然携帯が鳴り出した。
 流れ出したのは、思っていた通りのメロディ――そこに、無機質なピリリリ、という電子音が被さる。
「あっごめんなさい、ちょっと失礼します! ――はい、私です」
 こちらも胸ポケットから取り出した携帯を開き、片耳に押し当てる。
 無粋な着信音を止めたものの、もう彼女が電話の相手にはい、はい、と頷く声しか聞こえない。
『――おい、Gemini? どうかしたのか』
「……いや。何でもない」
 まるで仕組まれたようなタイミングの悪さに辟易しつつ、仕方なく電話に耳を傾ける。
 やってもらいたいことができたからすぐ戻れ、という指示だった。
 わかったと返事をして通話を終えると、同じように携帯を閉じている彼女と目が合う。
「あの、すみません。私、急な用事が出来てしまって……すぐに行かないと」
「いいよ。って、実は僕もなんだ」
 飲みかけのコーヒーをそのままに席を立ち、伝票を掴む。
 入口へ彼女をエスコートしながら、さり気なく肩を抱き寄せた。
「ねえ、これって偶然かな? それとも――」
 こうした扱いに慣れていないのか、どこか落ち着きのない彼女を覗き込んで、甘く囁く。
「運命の女神様が僕たちを邪魔しようとしてるのかな」
「えっ、え……?」
「なんてね」
 レジの前で彼女を解放し、支払いを済ませる。
 店を出ると、先に出てもらっていた彼女が待っていて、ごちそうさまでしたと律儀に頭を下げてきた。
「月子ちゃん。もし良かったら、また会えないかな。もう少し、君と話がしてみたい」
「あ、はい。いいですけど……わっ」
 またいいところで彼女の携帯が音を立てた。
 流れたメロディは別のもので、どうやらメールの着信のようだ。
 メールに目を通し終えた彼女は、
「すみません、急がないといけないようなので、私これで失礼します!」
 口早に告げると再びぺこりと頭を下げ、脱兎の如く走り出した。
「ちょっ、待って! 連絡先とか――」
 声を上げると、既に姿が小さくなっている彼女が振り返った。
 その場で駆け足をしながら、叫ぶ。
「運命の女神様に負けなければ、また会えますよね!」
 最後にとびっきりの笑顔を残して、彼女は走り去っていった。
「……参ったな」
 確証は何も得られなかった。
 けれど、ずっと自分が探し求めてきたものの手がかりであることは間違いなさそうだ。
「明日が終われば……」
 計画通りに事が進むのであれば、それ以降は行動を制限されることもないはず。
 彼女について調べるのは、それからでも遅くはないだろう――きっと。


***


(……と、思ってたんだけどね。これって、本当に偶然?)
 作戦開始は今夜。
 その最終確認のため再び訪れた美術館で、館内を順路とは逆に進んでいく彼女とすれ違ったのだ。
 作業着めいた格好で、目深に被った帽子の中に長い髪の毛を隠していたが、その顔を見間違うはずもない。
 否応なしに胸が高鳴ると同時に、不穏な予感も湧き起こる。
(偶然……でなかったとしたら?)
 まさか、昨日会った自分のことが忘れられず、思い余って探しに来たのでは――などと頭の悪いことを言うつもりはない。
 今、この星月美術館に用がある人間は二つに大別できる。
 美術館の金庫に保管されているという、"Tears of the Polestar"に用がある者と、そうでない者の二つだ。
(この予感が気のせいであることを願うけど……無理かな)
 通路を曲がっていった彼女の後を追う。
 自分も彼女と同じように、警備員の目を盗むようにして順路を区切るロープを越え、通路を曲がる。
曲がった先は、何の展示もされていないただの直線通路で、奥は行き止まりになっていた。
 展示物が多い場合は、この通路も展示順路として使われているのだろう。
 通路の向かって左側が壁で、展示用の棚などが点在している。右側はガラス戸で区切られ、その外は中庭だ。
 進んで行くと、彼女は随分と奥の方にいた。
 壁に手を触れさせて、注意深く何かを観察しているように見える――そういえば昨日、自分も似たような場所を確認したな、と予感の的中を確信した。
 足音と気配を殺しながら、近づいていく。
「――月子ちゃん」
「!」
 こちらを振り返った彼女の顔が、明らかに強張った。
 ゆっくり歩み寄るこちらにあわせて、一歩、二歩と後退し――そこで動きを止める。
 そのままだと壁に突き当たるだけと判断したのだろう。
「案外、運命の女神様も大したことなかったね」
 彼女は帽子のつばを引っ張るようにして俯き、作ったのがバレバレな低めの声で言った。 
「え……っとあの、どなたでしょうか」
「昨日会ったばかりなのに、もう忘れちゃったの? 案外冷たいんだなあ、夜久月子ちゃん」
 フルネームで呼んでやると、さすがに観念したらしい。
「……ごめんなさい。忘れたわけじゃなかったんですけど」
 潔く帽子を取ると、彼女は小さく頭を下げた。
 ポニーテールにした髪がぱらぱらと揺れる。
「いいよ、気にしないで。僕は君にまた会えて嬉しいし。……それで、今日はこんな所で何をしているのかな。君は美術館の関係者ってわけでもなさそうだけど」
 途端、気まずそうに俯かれる。それでも、しばらく待ってやると渋々口を開いてくれた。
「その……ちょっと、探し物を」
「そんな変装みたいなことまでして? よっぽど大切なものなんだね」
「……はい」
 すると彼女は神妙な表情になり、素直に頷いた。
 ――うん、可愛い。
「何だか大変そうだね。僕も手伝おうか」
「いっ――いえ。一人で平気です」
「遠慮なんかしなくていい。僕は君の力になりたい」
 コツ、と彼女に一歩踏み寄る。
「そ、その、本当にお気持ちだけで……」
 彼女は一歩退きかけて、後ろの壁まであまり後がないことに気付いたのだろう。押し返すように両手を前に出し、引きつった笑みを浮かべている。
 それでもなお一歩詰め寄ったところで、視界の右端に黒い何かが見えた――反射的に体が動く。
「月子ちゃん!」
「え、きゃあ!!」
 飛びかかるようにして、彼女をその場に押し倒す。
 どさりと倒れ込んだ音に混じって、何か鈍い音がした気がする――首だけ回して窺うと、ガラス戸の一角にひび割れと、その直線上にある壁に小さな穴のようなものが出来ていた。弾痕だ。
 さらにガラス戸の向こうを視認するが、誰もいない。
 ただ、一瞬だけ視認できた黒いスーツの男にには、見覚えがあった。
(今のは……まさか、Ophiuchusか?)
「あ……あの」
 遠慮がちな声に視線を下に戻すと、床に押し倒されたままの彼女が、顔を真っ赤にして固まっていた。
「ああ、ごめん。君の近くに蜂がいたんだ」
「は、蜂……ですか?」
「うん。……まあ、蛇だったのかもしれないけど」
「え?」
「いや、こっちの話。何にしても、もうどこかに行っちゃったみたいだね。ごめんね、咄嗟だったから」
「い、いえ。……どうも」
 さり気なく背中をガラス戸の方へ向け、自分の体で彼女を隠すようにしながら、起き上がるのを手伝う。
 Zodiacの実行部隊には血の気の盛んな者もいるが、真っ昼間から銃をぶっ放すような奴はいないし、拳銃を得物とする者もいなかったはずだ(扱えはするだろうが)。
 とすると今のはやはり、隠密行動を担うOphiuchusによるものかもしれない。
 このあからさまに怪しい少女――夜久月子が他の暗殺者に狙われていなければ、の話だが。
(いや……だとしても、疑問が残る)
 OphiuchusはAriesから殺人を禁じられていて、それはリーダーのLibraも望むところのはず。
 それに、どんなに彼女の存在が邪魔だったとしても、作戦決行が今夜ということを考えると、今、この場所で行動を起こすのはあまりにもリスクが高すぎる。
(何らかの方針転換があったなら、連絡の一つも寄越して欲しいもんだけど……まあ、どっちにしても同じか)
 何であれ、今はまだ彼女を殺させるわけにはいかない。
(彼女からは、まだ何も肝心なことを聞いていないんだ)
「……あ、帽子」
 先程押し倒した拍子に、彼女の手から帽子が飛んでいってしまったようだ。
 辺りを見渡した彼女が、通路の隅に転がっているのを発見し、ぱたぱたと取りに行く。
 それを横目で見送り、警戒していたガラス戸の向こう側――中庭から、再び通路の方へ視線を戻すと、
「――!!」
 そこには、Ophiuchusがいた。
 彼は無表情のまま、流れるような動作で腕を振り上げる。
 その手に握られているのはナイフだろうか。
(くそっ――!)
 叫ぶ余裕もないまま、帽子を拾い上げたばかりの彼女へ飛びかかり、床へと引き倒す。
 拳銃からナイフに変えたのは、室内で発砲音――ここは天井が吹き抜けになっているため、音が響きやすい――を聞かれるのを避けるためか。
 彼女に覆い被さる形で倒れ込む直前、側頭部に熱い衝撃が走った。
 続いて、壁にナイフが突き刺さる。
「っ……ぅ、くっ」
 半身を起こし、素早く後方を確認する。が、Ophiuchusの姿はどこにもない。
 中庭の方へ逃げたのかと首を巡らせると、左目の視界がどろりとした赤いものに覆われた。さっきのナイフが頭を掠めたのだろう。幸い、痛みは大したことはない。
 伊達でしている眼鏡を取り、頭から流れてくる血液を拭う。すぐに中庭を見たが、やはり誰もいなかった。
「郁さん!! 大丈夫ですか!!」
 身を起こした彼女が顔を真っ青にして、自分を覗き込んでくる。
「ああ。平気だよ、これぐらい……月子ちゃん?」
 彼女はこちらの傷を見るなり、その動きを止めてしまった。
 瞬きもせず、じっと傷の具合を――違う、こちらの顔を見ている。
「……郁さん。聞きたいことがあります」
「奇遇だね。僕も君に聞きたいことがあるんだ。……でもその前に、とりあえず場所を変えない?」
「はい。まずは病院に行きましょう」
 立ち上がろうとすると、彼女が手を貸してくれる。
 頭からの出血は治まりつつあったが、眼鏡は胸ポケットに突っ込んでおくことにした。
 館内と美術館周辺の地図を思い描き、人の多そうなルートを考える。Ophiuchusにどんな指示が下っているにせよ、事を大きくするのは避けたいはずだ。
「出口まで一気に走り抜けよう。平気?」
「はい。郁さんこそ、大丈夫ですか?」
「平気だよ。ああそれと、君はこっち側」
 自分の右側――通路の壁側に彼女を立たせる。
 姿を隠したOphiuchusが、また中庭から狙撃してくるとも限らないからだ。
「それじゃ、僕についてきて。行こう!」
 声と共に、二人で走り出す。
 順路から外れた直線通路を一気に駆け抜ける。
 だが予想していた攻撃は一つもないまま、直線コースは終了した。
(どこかで待ち伏せされてたら厄介だな……くそっ)
 角を曲がり、順路を区切るロープを飛び越える。
 順路ではない所から走り出てきた二人組に、通りがかった一般客がぎょっとしている。
「ちょっと、おい君達!」
 怒号と共に追ってくる警備員は無視。そのまま出口まで突っ切ろうとして――突然、辺りに爆音が響き渡った。
 吹き荒れる爆風で視界が真っ白に染まる。
(な……!!)
 ろくに受け身も取れぬまま爆風に転がされながら、脳裏には犯人の名前がすぐに思い浮かぶ。
 こんな馬鹿な真似をするのは一人しかいない。
(Aquarius……!)
 昼のうちから爆発なんて、Ophiuchus以上に計画を逸脱した行為だ。
「ぅ……げほっ」
 瞬間的に使い物にならなくなっていた聴覚と視覚が戻り、どうにか体を起こす。
 館内は非常ベルが鳴り響き、もうもうと煙が立ち籠めている。
 爆発の余波にしては随分と量が多い。もしかすると、爆発だけではなく煙幕が焚かれたのかもしれない。
(彼女は……月子ちゃんはどこに)
 名前を呼ぼうとして煙を吸い込んでしまい、大きく咳き込む。
 止まっていたはずの出血も、転がったついでに傷が開いたらしい。
 再び流れ出した血液で、左目の視界が奪われる。
「くそ……っ」
 半ば手探りで、必死に彼女を探す。
 口元を押さえながら、再び彼女の名前を呼ぼうとしたその時、煙幕を突き破って小柄な人影が姿を現した。
「おい、Gemini! 平気か!!」
「Leo!! どうしてここに」
「話は後だ。まずはここを離脱するぞ。こっちだ」
 Leoは体は小さいが力はある。腕を掴まれ、強引に立たせられてしまった。
「ま、待ってくれ! 僕にはやらなきゃいけないことが――」
「そうだ、俺達全員にそれがある!」
 強く言い切ったLeoには、有無を言わせぬ何かがあった。
 何より、その強い意志の後ろに、Libraの意思が見えた気がした。
「……っ」
「行くぞ」
 Leoに手引きされるまま、星月美術館を脱出する。
 彼女は無事だろうか。無事であるといい。
(――無事でなくちゃ、困るんだ)



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大筋はGemini×スピカ(のつもり)ですが、この後の流れはGeminiとフォーマルハウト(とLibra)がメイン気味だったり、全体的に公式ドラマCDと比べ無駄に殺伐としてたりする誰得感満載な本です。

  • Category 同人誌情報
  • Date 2011/12/03
  • By 実月
  • stsk郁月