human disposition+
A5/48P/400円
タクアキ小説本(18禁)
成人向けの内容を含むため、未成年の方への販売・閲覧は禁止いたします。
実月個人誌。
タクトMエンド後でタクトとアキラがなんやかやしてる話。わりとシリアス。
※以前発行したタクアキコピー本に加筆修正+その続きになります。
本文サンプルは続きから。
◆「human disposition+」本文サンプル
「でっ、でではなアキラ! また明日!」
ぎくしゃくとぎこちない歩き方をしていたタクトくんは自分に割り当てられた部屋の前まで来ると、これまたカクカクした動きで振り向きその右手を意味もなく敬礼のポーズにした上で、思いっきりどもりながら挨拶を述べるなり逃げるように部屋へ飛び込んでいった。
「……また明日」
わたしの返事はガチャンというオートロックの音に被りつつ、虚しく廊下に響く。
「……」
閉じられたドアを半眼になりながら見つめていたけれど、何の意味もないことに気付いた。仕方なく歩き出し、自分の部屋へと向かう。
「はあ……」
カードキーで斜め向かいの部屋のロックを解除し、中へと入る。
シングルルームの床へ荷物を適当に置くと、わたしはそのままベッドへ倒れ込んだ。
あまり柔らかくないマットレスの感覚に、まあ値段相応かな、とどうでもいいことを考えた。
「……はあ」
二度目のため息が漏れる。
原因はもちろん、さっきの絵に描いたような動揺を見せたタクトくんだ。
タクトくんがおかしいのはわりといつものこと――じゃなくて、あんな風にあからさまな奇行を取るのは、何も今日が初めての事じゃなかった。
――すべての原因は、今から一週間ほど前にまで遡る。
***
タクトくんの贖罪の旅。
死を賭して人類を守った「英雄」から、人類を滅亡へと導く大罪人となったタクトくんは、青の世界が救われた今、自らを咎人と称し各地を巡っていた。
あの戦いによって、大地も人も、多くのものが傷付いてしまっていた。
タクトくんはそれらを一つ一つ確かめては自らに刻みつけているようだった。
道中、人々から罵声や誹りを受けることもあれば、石を投げられることだってあった。また、そうした批難の声はタクトくんに同行するわたしへ向けられることも多々あって、今や「魔女」などと呼ばれることも少なくない。
ともあれ、わたしとタクトくんはそうした波瀾に満ちた旅を続けていて、その日はLAGから提供してもらった資料を元に、次の行き先についての検討を行っていた。
場所は滞在していた宿の一室、タクトくんの部屋で行われていた。
そこそこ手狭なシングルルームの中、テーブルの上に広げた資料を囲む形で、わたしはベッドに腰掛け、タクトくんは備え付けのイスに座っていた。
データを元に意見を交わし合うことは、戦闘ユニットの指揮官とリーダーとして戦略を練っていた頃が思い返されて、中々に充実した時間だったのを覚えている。
ほどなくして話がまとまり、段々と雑談めいたものが混じり始めたあたりで、膝に乗せていた書類が床に落ちてしまった。
何気なくそれを拾おうとして、けれどわたしの手は書類に届くことはなかった。
途中で、ほぼ同時に行動を起こしていたタクトくんの手にぶつかったからだ。
「あっ」
二人揃って声をあげて、同じタイミングで顔まで見合わせて――視線がかち合う。
そうして、わたしたちは動きを止めた。
少なくとも、わたしの動きは止まってしまっていた。
どうしてかはわからない。わからなかったけれど、わたしはタクトくんの瞳を見つめたまま、体が動かせなくなってしまっていた。
「……」
どれくらいそうしていたのか。
ほんの数秒だったのかもしれないし、分単位で固まったままだったのかもしれない。
でもいつの間にか――たぶんどちらからともなく、わたしたちは互いの距離を縮めていたのだと思う。
「……ん」
目を閉じて数秒後、唇に触れてくる感触。
それはもう何度も経験していたものだった。
けれど、わたしの心臓はどきどきと早鐘を打ち鳴らしていて、タクトくんに聞こえてないかなと少しだけ心配になるくらいだった。
やがて、自然と止めていた息が苦しいと感じ始めた頃、触れていた箇所のベクトルが変化した。
「ん……っ!?」
閉じたままの唇が押し開かれる――ことには、それほど驚きを感じはしなかった。それぐらいは、前にもあったことだから。
ただそのうちに、わたしは体のバランスを崩してしまっていた。それも後方に。
わたしの後方にあるものといえば、腰掛けていたベッドしかありえなく。
気が付いた時には、わたしの体は背中からベッドに倒れ込んでいて、仰向けになったわたしに覆い被さるようにして、シーツに両手をついているタクトくんがいた。
「……ぁ」
ぱちぱちと瞬きをして思ったのは、こんな角度から彼を見上げたことはこれまでに一度もなかったな、ということだった。
今わたしは、タクトくんに押し倒されている。
自分の置かれた状況を正しく把握して、わたしは顔が熱くなるのを知覚した。
その直後、
「――っすすすす、すまない!!」
声を全力で裏返して、タクトくんが飛び退った。
ずざざざと物凄い勢いで壁際まで移動するタクトくんを目で追いながら、わたしもわたわたと体を起こす。
「あ、あの」
「そ、そのそういうつもりはっ、な、なにもなかった、ないんだ、その、では僕は部屋を出て行くことにしよう!!」
「えっ、タクトく――」
ん、と発音した時には、既にタクトくんは部屋を出て行ってしまっていた。
「ここ、タクトくんの部屋なんだけど……」
わたしのつぶやきも空しく、その日タクトくんが部屋に戻ってくることはなかった。
(……それから三日ほど近寄らせてくれなかったのよね)
何せ、二人で行動はしていたものの、半径三メートル以内に近付いてはダメだと謎の主張をされ続けた。
しかも最初は五メートルだったのを必死に交渉してどうにか妥協してもらった結果の三メートルであったりする。
まあ、四日目以降はさすがに落ち着いてくれたようで、その範囲は半径一メートル以内にまで縮まってくれた。
そして、宿に着く――というよりは、夜になると――先程のような不審極まりない挙動と共に、完全にわたしを避けようとする始末なわけで。
(さすがにそろそろ元に戻って欲しい……)
避けられているのは、何もわたしを嫌いになったとか、そういうわけでないことはわかっている。
一メートルという微妙な距離はあるものの、昼のうちは普通に会話もしてくれるし、旅の生活に支障が出ているわけでもない。
だからまあ、耐えきれない、というほどではないのだけれど。
(……一応、恋人同士、ってことになる、のよね? わたしたちって)
わたしがタクトくんを好きになり――「彼を選んだ」ことで、青の世界は救われたのだという。
確かにわたしは世界を守りたかった。でも同時に、タクトくんを救いたかった。わたしを助けようとして、自らを業火に飛び込ませてしまったあの人を。
(タクトくん……)
目を閉じて、思い出してみる。
彼の声。彼の笑顔。優しくて、それでいて素直ではない彼の言動。
――そして、触れた唇の感触。
「……」
わたしはどことなく居たたまれない気分になり、閉じていた目を開いた。
(もし、あのまま……だったら)
どうなっていたのだろう。
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タクアキと言いつつ半ばアキラたんの話です。
R18的なサンプルはpixivの方にあります。