meganebu

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human disposition

A5/16P/100円
スカーレッドライダーゼクス タクト×アキラ小説本

 

実月個人誌。
スカーレッドライダーゼクスのタクトMエンド後のタクト×アキラ話。
表紙は仲村さんが一晩でやってくれました。マジありがとう土下座。

 

 

◆「human disposition」本文サンプル


(※以下、スカーレッドライダーゼクス本編のネタバレを含んでおりますのでご注意ください)





「でっ、でではなアキラ! また明日!」
 ぎくしゃくとぎこちない歩き方をしていたタクトくんは自分に割り当てられた部屋の前まで来ると、これまたカクカクした動きで振り向き、その右手を意味も なく敬礼のポーズにした上で、思いっきりどもりながら挨拶を述べるなり逃げるように部屋へ飛び込んでいった。
「……また明日」
 わたしの返事はガチャンというオートロックの音に被りつつ、虚しく廊下に響く。
「……」
 半眼になりつつ閉じられたドアを見つめていたが、何の意味もないことに気付いた。仕方なく自分も歩き出し、自分の部屋へと向かう。
「はあ……」
 カードキーでロックを解除し、ホテルの部屋へ入る。
 シングルルームの床に荷物を適当に置いて、そのままベッドへと倒れ込んだ。
 あまり柔らかくないマットレスの感覚に、まあ値段相応かな、とどうでもいいことを考える。
「……はあ」
 二度目のため息が漏れる。
 原因はもちろん、さっきの「動揺」を動画にしたようなタクトくんだ。
 タクトくんがおかしいのはわりといつものこと――じゃなくて、あんな風にあからさまな奇行を取るのは、何も今日が初めての事じゃなかった。
 一週間ぐらい前からずっとだ。
 何があったかというと――まあ、こんな感じのことがあった。


***


 あれは、LAGからの資料を元にあれこれと相談をしていた時だった。
 タクトくんの贖罪の旅――「英雄」と祭り上げられたタクトくんは全国に顔が知れてしまったわけで、大っぴらな活動をするわけにはいかない。
 だから、まずは地道なボランティア活動から始めることにしたのだ。
 その日は、LAGから提供してもらった資料を元に次の行き先と、具体的に何を行うかについて検討していた。
 データを元にあれこれと話し合うのはかつて戦略を練っていた頃が思い出されて、とても充実した時間だった。
 たぶんそれはタクトくんも感じていたと思う。
 話し合いもほぼまとまり、段々と雑談が混じり始めたあたりで、膝に乗せていた書類が一枚、ひらりと床に落ちた。
 それを拾おうと手を伸ばすと、同時に伸ばされたタクトくんの手が触れて、
「あっ」
 二人同時に小さく声をあげて、やはり同時に顔を見合わせて、視線がかち合った。
 そのまま、動きが止まった。
 まるでタクトくんの視線に捕らわれてしまったかのように、わたしの体はいうことをきかなくなっていた。
 どれくらいそうしていたのか――ほんの数秒だったのかもしれないし、分単位で固まったままだったのかもしれない。
 でも気が付いた時には、たぶんどちらからともなく、互いの距離を縮めていたんだと思う。
「……ん」
 目を閉じて数秒後、唇に触れてくる感触があった。
 それはもう何度も経験していたものだったけれど、心臓はどくどくと早鐘を打ち鳴らしていて、聞こえてないかなと少しだけ心配になった。
 やがて、自然と止めてしまっていた息が苦しいと感じ始めた頃、触れていた部分のベクトルが変化した。
「ん……っ!?」
 閉じたままの唇が押し開かれる――ことには、別に驚きを感じはしなかった。それぐらいは、前にもあったことだから。
 でもその時のわたしは、何故か体のバランスを崩してしまったのだ。
 どうしてなのかはよく思い出せない。
 自分が傾いだのか、それとも相手のかけてくる力が強かったのか。
 気が付いた時には、わたしの体は座っていたベッドに仰向けの状態で倒れていて、それに覆い被さるようにタクトくんがシーツに両手をついていた。
「……ぁ」
 こんな角度から彼を見上げたことは、これまでに一度もなかったことに気付く――状況を把握して、思わず顔が熱くなった。
 途端、
「――っすすすす、すまない!!」
 声を思いっきり裏返して、タクトくんが飛び退った。そのまま壁際までずざざざざと移動する。
 わたしも慌てて体を起こす。
「う、うんあの……」
「そ、そのそういうつもりはっ、な、なにもなかった、ないんだ、うんその、では僕は部屋を出ていくことにしよう!!」
「えっ、タクトく――」
 ん、と発音した時には、既にタクトくんは部屋を出ていってしまっていた。
「ここ、タクトくんの部屋なんだけど……」
 わたしのつぶやきも空しく、その日タクトくんが部屋に戻ってくることはなかった。
(……それから三日ほど近寄らせてくれなかったのよね)
 二人で行動はしていたものの、半径一メートル以内に近づいてはダメだと謎の主張をされ続けた。
 最初は三メートルだったのをなんとか交渉して一メートルまで縮められたのは僥倖だったと言う他ない。
 その後はどうにか落ち着いてくれたみたいで、昼の間は隣に並んでもなんともなくなった。
 けれど、夜に――宿とかに戻ってくると、さっきのような有様になる。
(さすがにそろそろ元に戻って欲しい……)
 避けられているのは、何も自分を嫌いになったとかそういうわけではないことがわかっている。
 だから、まあ、耐えきれないほどではないのだけれど。
 昼間は普通に接してくれているし、何か支障が出ているというわけではない。ないけれど。
(……一応、恋人同士、ってことになる、のよね? わたし達って)
 自分達の想いが通じ合って、そのことで世界は救われた――らしい。自分としては何の自覚もなかったので、正直言って他人事感が強い。
 世界を守りたかった。でも同時に、タクトくんを救いたかった。わたしを助けようとして、自らを業火の中に飛び込ませてしまったあの人を。
(タクトくん……)
 目を閉じて、思い出してみる。
 彼の声。彼の照れが大いに混じった笑顔。
 ――そして、触れた唇の感触。
「……」
 なんとなく、ちょっと居たたまれなくなって、目を開ける。
(あのまま……だったら)
 どうなっていたのだろう。少しだけ考えてみて、顔の温度が上昇してきたのに気付いてすぐに打ち消す。
 ぺちぺちと軽く頬を叩いて反省しつつ、
(……そういう知識はある、のよね。わたし)
 そんなことを思った。
 一体何で知ったのだったか。本だったのか、友達に聞いたのか、もしくは保健体育的な授業で知ったのだったか――よくわからない。
 けれど、知識としては正しくそこにある。
 では、その知識は何処からもたらされたものなのか――本物の記憶なのかどうかは、もう誰にもわからない。
「……」
 幼い頃から今に至るまでの記憶はある。思い出だってある。ちゃんとある。
 けれど、それが本物かどうかがわからない。
 どこからどこまでが作られた記憶で、どこからどこまでが自分自身が体感したものなのか。
 両親の記憶も本物なのか――SREの指揮官になるまで実際に体感したものを、何度も植え付けられているのか。
 それとも、毎回全て作り物のそれを植え付けられているのか。
 それらの資料はどこにもない。
 だから、今となっては何が本物で何が偽物なのか判別することはできない。
 ただ一つ、わかるのは――SRXを指揮して、世界を救ったということだけ。
 SRXの指揮官として赴任してから。その後からが、わたしが体感して、認識して、受け入れてきた記憶。
(だから……わたしの中で、本当に確かなものは……タクトくんへの想いだけ)
 それだけは本物だと――今ある自分の中で生まれ、育ち、大切にしたいと思ったものだと、言うことができる。
(ずっとこのまま……なんてことは、ないと思いたいけど)
 できることなら、早急に解決しておきたい。
 こんな、好きな相手に触れるどころか、触れてももらえないような状況は。
(だいたい、わたしを守るって言ったのにああまで避けられたらどうしたらいいのよ。……そりゃあ、タクトくんの気持ちもわからないではないけど)
 たぶん彼は、自分に触れないでいることを贖罪の一つにしようとしているんじゃないだろうか。
 まあ、キスとか、触れてはいるんだけれど……深くは触れないようにしているとか、そんな感じの。
(まあ、元々行きすぎた照れ屋ってせいもあるんだろうけど)
 でもやっぱり、このままの状態にしておくのはよくない。
 何か打開策はないだろうかと、わたしはベッドに転がったまま延々考え続けた。


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AGFでファンブックが出ないのをいいことに好き勝手やりました(設定的な意味で)