artful cunning'
A5/36P/400円
ロン七小説本(18禁)
成人向けの内容を含むため、未成年の方への販売・閲覧は禁止いたします。
実月個人誌。
ロンハッピーエンド後、強引に飲酒させられた七海がロン相手になんやかやしたりされたりする話。
以前発行したロン七本の幕間的な話です(前の本を読んでなくても読めます)
本文サンプルは続きから。
◆「artful cunning'」本文サンプル
(本文途中から)
(……?)
寝静まったはずの屋内には、七海とロンしかいないはずだった。そして基本的に、ロンは一度寝たら朝まで――時折昼すぎまで――起きてはこない。
珍しくロンが起き出したのでなければ、物盗りなどの不審者という可能性が考えられた。
七海は部屋にクナイを取りに戻るべきか思案し、まずは状況を把握するべきだと判断した。
そうして、警戒しながら台所の様子を窺い、
「……何してるの」
全身に張り詰めさせていた緊張を解きながら、七海はそこにいた人物に声をかけた。
「あれ、どうしたの。こんな夜中に」
「それはこっちの台詞」
七海は頭を押さえたい心地を抑えつつ、咎めるように言い返す。
台所にいたのは当然ながらロンだった。
食事の際の定位置に座り、その手には飲みさしとおぼしき液体が入ったコップが一つ。
彼が肘をついているテーブルには、七海が台所の収納に隠すようにして保管しておいた一升瓶が鎮座していた。
瓶の側に無造作に転がっている栓が、それが既に開封済みであることを決定付けている。
「勝手に飲んだらダメと言った」
「そうだっけ」
七海がじっと睨んでも、ロンは何処吹く風だ。
「それよりもこれ、すごく美味しいよ。キミも飲まない?」
基本的に、ロンは人の話を聞かない傾向が強い。少なくとも、ノルンに居た頃の彼はずっとこんな調子だった。
それでも、全ての記憶を失って二人で暮らすようになってからは、七海の言うことをそこそこ素直に聞いていたというのに。
(……っ)
これではまるで、かつての彼が戻ってきたかのようではないか――そんなありえない錯覚が、七海の心をひどくざわつかせた。
「いらない」
「えー。こんなに美味しいのに。ほら、一口だけでもいいから」
言って、ロンは中身が半分ほど残っているコップを差し出してくる。
普段と比べ調子の良さは大して変わりはしないが、その口は多少饒舌であるかもしれない。
もしかして酔っているのだろうかと思ったが、見た目には特に変化もなく、横目で見ると一升瓶の中身はまだ半分ほど残っていた。
ロンが酒に弱いとも聞いた試しがないので、単純に美味い酒を飲んで気分がいい、というだけなのだろう。
「ほら、七海」
目の前に突き出された、無色透明の液体。
微かに、どこか覚えのある匂いが七海の鼻をついた――ような、気がした。
(……苛々する)
その感情は、久方ぶりに七海の中に湧き起こった。
今のロンに飲むのを止めろと言ったところで、止めることはないだろう。止めてくれるのなら、さっき注意した際に止める素振りを見せたはずだ。
それどころか、七海に勧めてくる始末なのである。
要するに、彼には止めるつもりなど毛頭ない、ということだ。
七海からすれば、この時点で完全なる「詰み」だった。
言って聞かないのであれば実力でわからせるしかないが、七海の力では決してロンには敵うことはない。
七海が忍びとして修行を積んできたのだとしても、ロンとの間にある圧倒的な差分はどうあっても覆せない。
男女差、体格差、技量や力量、純粋な力の差。
その全てにおいて、七海はロンに勝つことができない。
仮に七海が全力で向かったとしても、ロンは軽くいなしてしまうに違いなかった。
彼の記憶は、七海の能力によって失われた。
だが、その身体に積み重なり、染み付いたものまで消失したわけではない。
ロンの身体は覚えているだろう。刃向かってくる相手の制圧方法を。
小柄な七海を無力化することなど、ロンからすれば造作もないことなのだ。
そのことを、ここ数週間程で七海は嫌と言うほど見せつけられ、身体に教え込まれた――その多くは、ベッドの上で。
もちろん七海としても、体力的にロンに敵わないことくらいは理解している。
理解してはいるのだが――それでも、悔しいと感じてしまうことを、誰が責められるだろう。
いつかぎゃふんと言わせてやるのだと、下克上を夢見たことは一度や二度ではないのだ。
ただ、多くを諦め、現実を受け入れることに慣れてしまっている七海の性格上、そうしたことを表立って発露させることが滅多にないというだけで。
(……)
何にせよ、今のロンに飲むのを止め、部屋に戻って寝るように注意したところで、ロンがそれに従うことはきっとない。
もはや七海にはどうしようもないのである。
自分はどこまでも無力だと、まさかこんなことで実感する羽目になるとは思ってもいなくて――七海は、随分と苛々していた。
「ロン」
そうして、七海は強い調子で名前を呼んだ。咎める意志を声色に乗せて。
けれどやはり、ロンは聞く耳を持たなかった。
「……」
ロンは無言のまま、七海へ差し出していたコップの中身を一気に煽った。
そして――その腕が素早く動く。
「っ……!?」
伸ばされた手が七海の細い腕を掴み、強引に引き寄せた。
抵抗する間も与えられず、七海はつんのめるようにたたらを踏むので精一杯。
後ろに退こうとした身体はするりと絡んできた腕によって固定され、結果、七海の口は彼のそれで塞がれることとなった。
「ん、んぅ……!!」
半ば強引に――いつものように口が割られる。だが侵入してきたのは舌だけではなかった。ロンが口に含んでいた液体が流し込まれたのだ。
ロンの口が蓋となり、咥内を満たす液体を外に吐き出すことができない。
それどころか、ロンの舌は液体を飲み込ませんとばかりに蠢き始めた。
「んぐ――」
耐えきれず、こくり、と七海の喉が動く。
生ぬるい水のようなそれは、喉を通るあたりでカッと熱くなり、ひどく覚えのある匂いが鼻孔を刺激する。
液体のほとんどを飲み込んだのを確認してか、ロンはあっさりと七海から顔を離した。
同時に、七海は残る力を振り絞りロンの身体を突き放す。
「っげほ、えほっ……!」
咽せ続ける七海に、ロンは嬉しそうに問いかける。
「どう? 美味しいよね?」
美味しくなんかない。
そう答えようにも、喉の奥がひりつくように熱く、咳き込むことしかできない。
何より、自身の中から漂ってくる匂いにあてられて、頭がくらくらし始める。
(……う……)
端的に言うなら、不快だった。
気持ち悪い、という程ではないものの、自身の吐く息から妙な匂いが漂う。それはあっという間に七海の全身へと行き渡り、思考にもやをかけ始める。
その中で唯一、はっきりと、クリアになっていく感情があった。
理不尽さに対する憤り――ロンに対する怒りだ。
ロンはいつだって勝手だ。いや、それはかつての彼だ。今は違うはず。七海が全て消し去ってしまったのだから。
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ロンさんはだいたいひどいです。
R18的なサンプルはpixivの方にあります。