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マジLOVE2000%、1話後の音也と春歌とトキヤの話。
1話を繰り返し見ながら春歌たん逐一ぎゃわいいいいいいいいいいいいいと転げ回った勢いで書き殴ったので2話以降との差異はそっと目を瞑っていただければ幸いです土下座。

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「……くーん、一十木くーん!」
 遠くから聞こえてくる可愛らしい呼び声に、音也は廊下を進む足を止めて後ろを振り返った。
「あれ、七海?」
 駆け寄ってくるのは間違いなく、音也達と一つ屋根の下で生活する、同期生であり仲間であり作曲家である七海春歌だ。
 音也が立ち止まったことにか、ぱたぱたと必死に走ってくる春歌はぱっと顔を輝かせる。ただ随分と走り続けているらしく、その表情はすぐに苦しそうに歪み始めた。
 それを見た音也が慌てて駆け寄る。
「七海、大丈夫?」
「は……はひ、らいじょぶ……れす……」
 ぜえはあと肩を上下させながら、うまく息が続かず呂律も回っていない有様の何が大丈夫なのかはわからなかったが、そんなにしてまで自分を呼び止めてくれたという事実に、音也の口元がへらりと緩んだ。
 春歌の呼吸が落ち着くのを待ってから、音也はそわそわと話し掛ける。
「それで、そんなに慌ててどうしたの?」
「あ、はい! これなんですけど」
 差し出されたのは、春歌が大事そうに胸に抱えていた書類――手書きの楽譜だった。
 受け取ってすぐ、それが数日前に渡された自分のソロ曲だとわかる。
「俺の曲、だよね」
「はい。その、どうしても気になるところがあって……少し直してみたんです。ええと……ここと、あともう一つあって」
 言いながら、春歌は音也のすぐ隣に並び楽譜を覗き込んだ。
 突然寄り添われてぎょっとする音也をよそに、楽譜の二枚目と四枚目とを指し示して熱っぽく語り出す。
 説明を終えた春歌は顔を上げ、おずおずと付け加えてきた。
「あの……一十木くんは、お渡しした楽譜で練習とかって、もうしていただいてるんですよね」
 彼女にしては珍しく断定するような言い方をされて、音也は反射的にえっ、と声をあげてしまう。それに対し、春歌が嬉しそうにはにかむ。
「昨日と一昨日、風にのってギターの音が聞こえてきました」
「ああ、そういうことか。うん、楽譜もらった日から毎日してるよ。だって、すぐにでも歌いたくて」
「あ……ありがとうございます。それで、この直したところなんですけど、どちらを使うかは一十木くんに選んでもらえたらなと思いまして」
「え、こっちに差し替えじゃなくて?」
「はい。一十木くんが歌ってみて、しっくりくる方がいいかなって……」
 言われて、音也は改めて譜面に目を滑らせた。
 既に覚えてしまっているメロディラインを、変更された部分だけをすげ替え、頭の中でギターをかき鳴らす。すぐに頭の中だけでは物足りなくなって、まだ歌詞のない曲を小さく口ずさむ。春歌もそっと目を閉じて、その響きに耳を澄ませた。
 ひとしきりメロディを追って、音也の歌が止んだ。
 目を開けた春歌と視線を合わせてから、うん、と音也は頷いた。
「決めたよ」
「え、もうですか?」
 春歌は今すぐでなくても平気ですよと慌てたが、音也は迷いなく手にしていた楽譜を指差した。
「こっちにする」
「……直した方で、いいんですか?」
「うん。まあ、俺はどっちも好きだけど、どうしても気になった、っていう七海の感性を信じるよ。……それに、さ」
 ここに来て急に目を泳がせ始めた音也は、歯切れを悪くしながら続ける。
「この曲って、七海が俺のことを考えて作ってくれた、……んだよね?」
 音也の自信なさげな言葉に、春歌はぱちぱちと大きな瞳を瞬かせ、
「もちろんです!」
 真面目な顔で、力一杯断言した。
 そこに、音也が仄かに期待しているような何かは含有されてはいない。それはわかっているのだが、胸が躍るような心地と、緩む口元はどうにもならない。
「だったら、やっぱりこっちで!」
「わかりました。あの、一十木くんも何か気になったところとかあったら、遠慮無く言ってください」
「うん、そうする。ありがとう、七海」
「いえ、そんなわたしこそ。それじゃ、呼び止めちゃってすみませんでした」
 ぺこりと頭を下げ、春歌が踵を返そうとする。
「あっ、七海!」
 思わず呼び止めてしまったが、これといって用事があったわけではない。
 音也はええとあのそのと指示語で時間を稼ぎながら、どうにか話題を見つけ出した。
「そ、その……り、寮には慣れた?」
「はい。まだ、慣れないことばかりですけど……初日に比べたらだいぶ慣れました」
「そっか。うん、俺も。いきなり先輩と同室って言われてびっくりしちゃった。でも、れいちゃんすごくいい人だし、またトキヤと一緒だし、七海からは俺の曲までもらえたし、毎日がすごく充実してる! 七海は?」
「わたしもです」
 同意しながらも、春歌の表情が僅かに曇り始める。独り言のつもりで、春歌は小さく呟いた。
「……早く皆さんに追いつけるように、頑張らないと」
「追いつく? どうして?」
 まさか話を拾われるとは思っていなかったため、春歌は驚いて声をあげた。音也から真っ直ぐな瞳で見つめられ、しどろもどろと質問に答え始める。
「その、皆さん本当にきらきら輝いていて……わたしはそんな皆さんを、もっと輝かせるような曲を作らないとですし――え?」
 膨れていく不安が、春歌の視線を次第に下降させていく。
 そんな春歌の手を取り、音也はぎゅっと握り締めた。
「あ、あの、一十木くん……?」
「七海は俺たちの仲間だよ。俺たちは七海も含めてST☆RISHだって、俺は思ってる」
「一十木くん……」
「俺たちがST☆RISHとしてここにいるのは七海のおかげだし、俺たちが輝いてるっていうなら、それは七海がいてくれたからだよ。七海が、俺たちを輝かせてくれたんだ。だから、もっと自信持って」
「あ……」
 ねっ、と音也が笑いかける。
 強張り気味だった春歌の表情がゆるゆるとほころび始めた。
「……ありがとう、一十木くん」
「へへ、そんなお礼を言うのはこっちだし……って、うわっ、ごめん!」
 春歌の手を強く握ったままであることにようやく気付いて、音也は慌てて飛び退った。
「え? あの……」
「ご、ごめん俺、つい夢中になっちゃってて、その、七海の手ってすごく柔らかいなあとか――ってちが、な、何でもない! 今の忘れて!!」
 音也の失言を理解できずに、春歌はただ不思議そうに小首を傾げている。
 ただそのうち、あわあわと慌てるばかりの音也の様子がおかしくなってきたのか、春歌は小さく笑い始めた。 
「ほ、ほんとに今のは何でもないから、そのっ」
「――一十木くん」
「えっ、なっ、なにっ!?」
「ありがとう。わたし、頑張るね」
「あ……う、うん! 俺も頑張る!」
 ガッツポーズをしてみせる音也に、春歌もぐっと両手を握り締めて気合いを入れ始めた。
「そうですよね、刺激が強くても、頑張らないといけません……!」
「刺激?」
 意気込みよろしく呟いた言葉を、再び音也が問い返した。
 今度は苦笑気味に、春歌が答える。
「あ、その……色々、慣れないことがたくさんで、戸惑ってしまうことも多くて……でも、そんなこと言ってちゃダメですよね」
「ふうん。……ねえ、七海。慣れないことって、例えばどんな?」
 もしそれが自分が慣れていることなら、アドバイスするなり、慣れるまで一緒にやってみたりできるかもしれない。
 そんな下心全開の質問に、春歌はどこか言いにくそうに答えた。
「あ……ええっと、そう、ですね……神宮寺さんの挨拶ですとか」
「レンの挨拶?」
「は、はい。その……頬に、き……キスを」
「きす……ってええええええええええ!?」
「あ、あの、ただの挨拶だと仰ってましたし、驚く方が逆に失礼なんじゃないかってわかってはいるのですが、……全然慣れなくて……」
「う、うらやま……」
「え?」
「なっ、なななんでもない!」
(レンの奴、何でもないフリしながらやることはやってるんじゃん!)
 つい先日、春歌の話題になった際に「何を考えてるのかな」などと余裕たっぷりに聞いてきた仲間を思い出し、音也の中に過剰な焦りが生まれる。
(俺だって、七海と……七海と、もっと)
 レンが春歌に対してどれほど本気であるかなど、音也にはわかるはずもない。ただ、女性の扱いに手慣れたレンと張り合うことになれば、確実に音也の方が不利だ。
 そもそもアイドルとしての道を選んだ音也達は恋愛そのものが禁止とされている。
 だが仮に、レンが本気なのだとしたら――そのルールの中でも、うまくやれてしまうのではないだろうか。少なくとも音也には、レンのようにうまく立ち振る舞える自信はない。
 涼しい顔でさらりと誤魔化すような真似は、根が素直な音也には至難の業といってよかった。
(くっそー、レンだけいい思いするなんてずるい!)
 半ば八つ当たり気味に、音也はレンを羨んだ。そして、明後日の方向に決意を固めてしまう。
(だったら、俺だって――)
 音也は改まって春歌の顔を見つめた。急に雰囲気が変わったことに、春歌がきょとんと瞬きをする。
「……ねえ、七海」
「はい?」
「俺も、……挨拶、していい? その、レンと同じみたいに」
「え……えええええ!?」
 驚きのあまり悲鳴じみた叫び声をあげる春歌に、音也は思わず一歩前へ出た。
 ワンテンポ遅れて、春歌の体が一歩半ほど後退する。
「あ、あの一十木く」
 音也が二歩分の距離を縮めて、春歌の顔を覗き込んだ。
「ダメ?」
 必要以上に近すぎて、音也の目に自分の姿が映っている。それを認識して、ひぅ、と春歌が息を呑んだと同時、
「――ダメに決まっているでしょう」
 音也の頭へ、容赦ないスピードで振り下ろされた手刀が炸裂した。
「っいってえ――!?」
 叩かれた勢でよろけそうになったものの、どうにか踏ん張った音也ががばりと顔を上げる。
 そして、犯行現場から逃げも隠れもしていない犯人を指差して叫んだ。
「何するのさトキヤ!!」
「それはこちらのセリフです」
 トキヤは怒りを滲ませた低い声で告げると、驚きに目を丸くしている春歌を、音也から庇うようにして前へ出る。
「一体、彼女に何をしようとしていたんですか」
「え。その……た、ただの挨拶?」
「ほう? ……今のどこが挨拶だったというんですか」
「だ、だってレンはそうしてたって、七海が」
「レンの基準を真に受けない!」
 トキヤの鋭い声に、音也はうっと声を詰まらせた。
(うう……レンだったらこういう時何て言うんだろ)
 必死に考えてみるものの、結局何も思い付けはしない。
 音也自身アドリブに弱いつもりはないのだが、相手を言いくるめたり、煙に巻くような達者な口は持ち合わせてはいなかった。
「……すみませんでした……」
 レンとの力量の差を感じながら、音也が力なく項垂れる。
「……あ、あの、一ノ瀬さん」
 トキヤの後ろから事態を見守っていた春歌が、会話が途切れたのを見計いおずおずと声をかける。
 すると、トキヤはちらりと後ろを振り返り、はあ、と一つ溜め息を挟んでから、再び厳しい声をあげた。
「七海さん。あなたもです」
「え?」
「レンから、その……過剰な「挨拶」をされたのですよね」
「は、はい……」
「いいですか。私達はもうプロのアイドルとして活動を始めています。そして、アイドルに恋愛が御法度であることは、あなたもわかっていますね」
 確認するような言葉に、春歌は表情を引き締めて、きっぱりと答える。
「もちろんです」
「……」
 その真剣な瞳に、トキヤは一瞬何ともいえない感情を覚えたが、意志の力でそれを頭の隅に追いやってから、後を続ける。
「わかっているのであれば構いません。……ですが、これからはレンやこのバカのように迫られたりしたら、きちんと拒否すること。押しに弱くてはこの業界でやっていけません」
 そこで一度言葉を切り、トキヤは春歌を見つめる目を鋭くした。
「デビューする前に社長から指摘された件、まさか忘れたわけではありませんね?」
 ST☆RISHとしてデビューが決まる直前、春歌は一度彼らの作曲家から下ろされそうになった。それは偏に、弱気な心ではプロとして生きていくことは厳しい、その中で生きていく気概があるかどうかを試すものだった。
 あの時春歌は、自分が彼らの曲を作るのだと強く思い、願った。そうしたから、今ここにいる。
 この業界は、少しでも気を抜けば蹴落とされる、サバイバルそのものだ。強い意志がなければ、生き残ることも、さらにその先へ進むこともできはしない。
「……はいっ」
「よろしい」
 春歌の目に強い意志が宿っていることを確認し、トキヤはふっと目を伏せ、表情を緩める。
 そうして開かれたトキヤの瞳には、どこか意地の悪そうな雰囲気が漂っていた。
「――では、念のため確認しておきましょうか」
 突然掴まれた春歌の手首が素早く引き寄せられる。
 声をあげる間もなく――気が付いた時には、春歌のすぐ目の前にトキヤの顔があった。
「ぇ……あ、あああの、い、一ノ瀬さ……!?」
「どうしました? 拒否しないままでは、あなたはプロとして失格ですよ?」
 トキヤの言葉に、気が動転しかけていた春歌ははっと我に返った。
 羞恥やら何やらを必死に堪えて、春歌は勇気を振り絞って行動に出る。
「っや、やめ……て、ください……っ」
 春歌は手首を掴まれていない方の手でもって、どうにかトキヤを押し返そうとする。彼女なりに力を込めているのだが、トキヤからすれば子供の遊びも同然だった。
(……まったく)
 ここに来てトキヤは、レンの気持ちもわからないでもない、と不謹慎なことを思った。
(確かに、からかいがいがあるというか……)
 何事にも必死に、真面目に受け止めて、取り組もうとする真っ直ぐさ。
 それはきっと、自分達にはないものだろうから。努力したところで、もはや手に入るかどうかわからない、稀少なものであるから。
(……だから、君に惹かれてしまうのでしょうね)
 トキヤは掴んだままの春歌の手首をさらに引き、彼女の耳元でそっと囁いた。
「どうしたのかにゃ? 春歌ちゃん」
「――っ!?!!?!!!」
 途端、春歌は声にならない悲鳴をあげ、びくんとその身を震わせ――やがて何らかの限界を超えたらしい。顔をこの上なく真っ赤に染め、その膝からはくたりと力が抜けていく。
「おっと……」
「わあっ、七海!?」
 脱力した体を抱き留めると、しょげていた音也が慌てて駆け寄ってくる。
「いっ、今七海から「ぼふっ」とか「ぷしゅー」とかありえない音がしたよ!? ちょっとトキヤ、七海に何したの!?」
「いえ、特に何かをしたつもりはないのですが……」
 まさかここまでの反応とは、とトキヤは小さく続ける。
「何もしないでこんなになるわけないよ! ちょっ、七海しっかりして!」
 音也ががくがくと肩を揺すると、春歌はうわごとのようにふにゃふにゃと口を動かした。
「おばあひゃん……ますたーこーすはほんとうにしげきがつよすぎまふ……」
「な、七海ほんとにしっかりして!? 七海のおばあちゃんはまだ元気だよね!?」
「音也。今のは別に亡くなった人への呼びかけではないのでは」
「冷静にツッコんでる場合なの!? ていうかトキヤずるい! 俺だって七海のことぎゅーってしたいのに!」
「なっ……こ、これは彼女が倒れたから支えているだけです。というか音也、あれほど恋愛禁止だと言ったのにまだわかっていないようですね」
「うっ、そ、それは……と、とにかく、七海を運ばなきゃ! トキヤ貸して、俺が運ぶ!」
「どさくさに紛れて何を言っているんです。大体彼女は物じゃありませんよ。私が運びます」
「トキヤこそ何言ってるのさ!? ていうか、レンもトキヤもずるすぎだよ!! 俺の七海なのに!」
「――ですから、彼女は物ではないと言っているでしょう」
「いったあ!?」


 そうしてぎゃあぎゃあと騒いだ結果、メンバー全員揃って春歌を運ぶ運ばないという騒ぎに発展、最終的には偶然立ち寄った春歌の親友が漢らしく姫抱きして運ぶという結末が待っていることを、二人はまだ知らない。




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春歌たんとトモちゃんの次に音春ちゃんかわいいなーって思いながら書き始めたはずがどうしてこうなった。
にせんぱーでもHAYATO様の存在がちゃんと春歌たんの基盤に置かれていてそのへんほんと嬉しかったですにへにへ。