meganebu

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「talk rubbish」表紙

talk rubbish

A5/30P/400円
黒蝶合同誌

 

黒蝶のサイケデリカ、館の面々がなんやかや会話してる本です。
仲村:ほぼオールキャラ(紋白さん欠席)漫画、実月:緋紅小説です。

※小説はラブクロの緋影純ルートイベスト前提ですが、読んでなくても大丈夫な感じです。当然ながらネタバレはしています。

 

本文サンプルは続きから。

 

 

☆仲村(漫画)

 

 

 

☆実月(小説)

 



 階段を下りていくと、リビングにいるのは鴉翅くんだけのようだった。
 彼はソファに座り、腕組みをしてじっとテーブルの上に置いた紙を眺めている。集中しているようなので声は掛けない方がいいだろうかと考えていると、彼がぱっとこちらを向いた。
「あ、紅百合ちゃんいーところに! 今ちょっと時間ある?」
 何か飲もうと思って部屋を出て来ただけなので、私は手招きされるままソファへ近づいた。
「何?」
「まーまー座って座ってはいここ」
 すぐ隣の座面を叩いて示す鴉翅くん。仕方ないなあと思いながら、私はそこへ腰を下ろした。
 テーブルに置かれた紙に目をやると、そこには手書きの数字がずらりと並んでいた。数字は一から三十前後までがひとかたまりになっていて、そのかたまりは全部で十二個ある。
「……カレンダー?」
「せいかーい。っても、一年分の日の数を書いただけなんだけどね」
 確かに、どの月も一日が一番左から始まって、次の行は八から七日分、その次は十五から……と続いている。それが十二個、違っているのは各月の日の数だけだ。曜日については考慮されていない。
「この間の誕生日パーティー、何だかんだで盛り上がったじゃん? だから第二弾をやろうと思ってさ。誕生日以外で騒げる日ってなんかあったかなーって考えてたワケ」
「そうなんだ。私はいいと思うけど……」
 他の皆はどうだろうか。特に緋影くんあたりは難色を示しそうな気はする。
 あえて続けなかった部分を汲んでくれたのか、鴉翅くんはこう続けてきた。
「でさ、誰かさんとかが反対しなさそーな記念日とかそーゆーのないかなって考えてたトコなんだけど、紅百合ちゃんも一緒に考えてくれると嬉しーなーって」
「うん、いいよ」
 この館の中は、何かと気が塞ぐようなことが多い。皆でわいわい楽しめるイベント事は大歓迎だ。
「じゃあこれ見ながら、順に思いつくもの挙げてってみよっか。まずは一月から、はい紅百合ちゃん」
「えっ、と……お正月とか?」
「うんうん、そこは外せないよねー。他には何かある?」
 改めて、数字だけが並んだカレンダー(のようなもの)をじっと見つめる。
(他に、記念日みたいなもの……何とかの日、とか?)
「……成人の日?」
「あ、それそれそういうの待ってた! オレたち多分学生だし成人するのはもうちょっと後だろうから、パーティーする理由には厳しいかもだけど」
 鴉翅くんは紙の余白に「お正月」「成人の日」と書き込んでから、「成人の日」に取り消し線を引いた。
「その調子で次、二月は?」
「二月は、節分」
「そうそう、鬼はー外、福はー内ってね! 確かに外には鬼っていうか化け物はいるけど、……ビミョーだなー。単に化け物退治に行くぞってなりそー」
「あはは、そうかも」
「ていうか、二月といえばもっと重要なのがあるよね?」
 何故か前のめりになって聞いてくる鴉翅くん。
 他に何かあっただろうか。二月のカレンダーを祝日の色付きで頭に思い浮かべてみる。
「……あ、建国記念日?」
「そーじゃなくて、バレンタインだよバレンタイン! バレンタインめっちゃ良くない? 紅百合ちゃんがオレに愛のこもった手作りチョコを贈ってくれるカンジの!」
 愛がどうとかの部分は聞かなかったことにするとして、それ以前の問題があると思う。
「この館、チョコレートってあるのかな?」
 保存食や調味料の類はそれなりに揃ってはいるけれど、お菓子や嗜好品はあまり見かけない。
 仮にあったとして、手作りチョコを作れるほどの分量があるだろうか。
(トッピングに使えそうなものもあまりなさそうだし、湯煎で溶かして、固めるくらいしか出来なさそう)
 お菓子作りという観点からあれこれ検討し始める私に、鴉翅くんはこともなげに言った。
「あー、なら別にチョコでなくてもいいと思うんだよねー。そこに紅百合ちゃんの愛さえあれば!」
(ええ……)
 冗談なのか本気なのか、どちらにしても個人的には遠慮しておきたい。
「……それはそれとして、バレンタインってパーティーをする理由になるかな?」
「オレはなるよ?」
 まあ、そうなんだろうなあ、とは思っていたけれど。
「緋影くんとか、山都くんは違うんじゃないかな……」
 鉤翅さんあたりは笑って受け入れてくれそうではあるけれど、やはり気軽に行うイベントではない気がする。
「えー。やっぱダメかー」
 存外あっさりと諦めてくれた鴉翅くんは、紙に「節分」と「バレンタイン」を書き込んで、両方に線を引く。
「じゃあ三月は……ひな祭りとか? でも、女の子の節句だからこれもちょっと違うかな」
 そんな調子で、暦を順に追いながら、思いつく限りの年中行事を挙げていく。
 結果として、その大半は取り消し線を引かれることになってしまった。
「……やっぱこうなっちゃうかー」
 余白に記された中で、線が引かれなかったものはたったの二つだ。
「お正月と、クリスマス……定番といえば定番だよね」
「まー正攻法が一番効くってやつ? ……っても、鉤翅くんはいいとして、後の二人がなー。緋影っちはアタマ固過ぎだし、山都は変なとこで偏屈だし」
「そ、そうかな……でも、誕生日パーティーは二人とも協力してくれたじゃない?」
「それはそーなんだけど。まー山都は適当に押し切ればいいとして、やっぱ問題は緋影っちかー」
 緋影くんは場をまとめるリーダー的な役割をすることが多い。緋影くんの言うことが全てというわけではないけれど、彼の了承が得られないと話が進まないのも確かで。
「――それで、僕がどう問題だというんだ」
 突然リビングに響き渡った声に、私と鴉翅くんは後方を振り返った。
「緋影くん!」
「げ、緋影っち。うわー噂をすればなんとやらってヤツ?」
 階段を下りきった緋影くんが、険しい表情で歩いてくる。
 どの辺りから聞かれていたのだろうか。
 彼の雰囲気は友好的とは言い難く、変に誤解されている可能性もある。
「あのね緋影くん、今のは別に悪口とかそういうのじゃなくて――」
「だが問題なんだろう。僕の何が問題だというんだ」
 私の言葉を遮り、緋影くんはソファに座る鴉翅くんをじろりと見下ろす。対する鴉翅くんは、軽く肩を竦めただけでまったく動じていない。
「だからさー、話せば長くなるんだけど」
「手短にまとめてわかりやすく話せ」
「注文多いなー。……この間の誕生日パーティー、何だかんだで盛り上がったから第二弾をやろーと思っ」
「却下だ」
「はっや! まだ全部言い終わってもないのに!」
 今まさに目の前で起きたことこそが「問題」だったのだけれど……。私は心の中だけで呟いた。
「別に、この間の催し物が悪かったとは言わない。だが、そう何度もやるものじゃないだろう」
「まーまー聞いてよ緋影っち、次はお正月かクリスマスあたりでどーかなって思うんだけど」
「却下だと言っているだろう」
「そー言わずに考えてみてよ、お正月もクリスマスもおめでたくてハッピーな一大行事じゃん。それをやったらきっとオレたちのモチベもダダ上がりだと思うんだよねー」


(中略)


「……悪くない味だ」
 丁寧に淹れたハーブティを一口飲んだ緋影くんは、そう感想を述べてくれた。
 良かったと笑みを返しながら、私も飲み始める。
(うん、香りもいいし……温かくて、落ち着く)
 しばらくの間、私たちは黙ったままだった。その沈黙は気まずいものではなく、どちらかといえば心地よさすらあったのだけれど。
 緋影くんからすると、そうではなかったらしい。
「……紅百合。先に言っておくけど、また質問をするようなら僕は部屋に戻らせてもらう」
「う、うん。しないから、ゆっくり飲んで」
 というより、今は指南書を持ってきていないので質問の内容がわからない。私は何も持っていないことをアピールするべく、両手を広げてみせる。
(……そっか、今は緋影くんと二人きりだ)
 彼への質問は周りに誰もいないときを狙って行うようにしていた。だから緋影くんは、私がまた何か聞いてくるのではと思ったのだろう。
(迷惑じゃない、とは言ってたけど……)
 そう話していた時の緋影くんは、どこか困ったような表情をしていた。
 それに、こうして釘を刺してくるくらいなのだから、一つも迷惑じゃない、ということはないのだと思う。
(私は楽しんでるけど、緋影くんからしたら毎日聞かれてばかりで面白くないのかも――)
 そこまで考えて、ふと気付く。
(そうだ。質問してたのって、私だけなんだ)
 もちろん、緋影くんは指南書を受け取ったわけではないのだから、当たり前なのだけれど。
(「二人きり」で「目を見て話して」はいるけど、それだけだ)
 これでは三つ目の条件がクリアできていない。そのことに今更ながらに気付かされる。
「その、今は聞かない……から、緋影くんが聞くのはどうかな?」
「は?」
 そう、指南書にはこうあるのだ――みっつ、お互いをよく知ること、と。
 つまり、緋影くんにも私のことを知ってもらう必要があるんじゃないだろうか。
「だから、緋影くんが私に聞きたいことってあるかなって」
「ない」
 即答だった。
 けれど、このくらいで諦めるわけにはいかない。
「で、でもこれまで私が聞いてばっかりだったし、不公平じゃない?」
「公平を期すというのなら、君が僕に質問をしなければいいんじゃないか」
「うっ……そ、そうかもしれないけど、これまで聞いた分は帳消しってわけにいかないと思うし!」
 しつこく食い下がると、緋影くんはあからさまなため息をついた後、顎に手を添えて考え始めてくれた。



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時間軸が館の話やろーぜ!ってやってみたら会話してるだけの本になりました。
あと小説は緋影ルートの話だから緋紅と言い張っているレベルの緋紅ですので予めご了承ください。