sport glasses
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p>ED後、メガネと月子たんがいちゃこいてるだけの話。
ふと、視線を感じて本から顔を上げると、彼女と目が合った。
「なに? じっと見つめてきたりして、そんなに僕にかまって欲しい?」
口元に勝手に浮かんだ笑みをそのままにして聞いてみると、彼女は違う、とすげなく首を振った。
「郁が眼鏡を取ったところを想像してたの」
ああ……そういえばこの間、眼鏡が伊達だって教えてしまったんだっけ。
元々教えるつもりはなかった。けれどつい、彼女には自分のことを知っておいてもらいたい、そんな欲望に打ち勝てなくて。
僕は本当に、月子に弱いよね。
「取ってみてって言っても、取ってくれないだろうと思って」
そうならそう言えばいいのに、可愛くおねだりできたら考えなくもないよ――と、からかう前に勝手に答えられた。
最近、彼女が妙に先回りをしてくるのが多いのは気のせいじゃないみたいだ。
「そんなことない」
「本当?」
「本当だよ。月子が可愛くおねだりできたらね」
ほらやっぱり。そう、彼女はくすくす笑って受け流した。
――けど、頬がちょっとだけ赤くなってたのは見逃さなかったよ。
「仕方ないな。今日だけサービスしてあげるよ」
そう言って眼鏡のつるに手を掛けると、彼女は目を丸くして聞いてきた。
「いいの?」
その表情は、期待半分、疑い半分……といったところ、かな。
「嫌なら止めるけど」
「ううん、見たい」
ちょっとムッとして嫌味を言ってみると、こちらの語尾に被さる勢いで即答された。
本当、こういう時はものすごく素直だよね、月子って。
「……はい。これでいい?」
眼鏡を外して、彼女を正面から見つめた。
すると、彼女が僅かに狼狽えたのがわかる。
あれ? レンズ越しじゃなく直接見つめられて照れちゃったのかな。それとも、眼鏡を外した顔が意外だったとか?
まあ何にしても――
「――って、郁? な、何?」
見つめる瞳に吸い寄せられるように顔を近づけていくと、彼女はじりじりと後退した。
待ってとばかりに上がった手をすかさず掴んで強引に指を絡ませてから、ソファの座面にそっと押し付けておく。
「郁っ」
非難めいた声があがったので、一応、申し訳なさそうに答えておく。
「眼鏡を外したから、月子の顔がよく見えなくて」
「……伊達眼鏡って言ってたよね」
「そうだっけ? まあ、何でもいいけど」
「よくない! っ……」
互いの吐息が吹き掛かるぐらいの距離で、月子の瞳を覗き込む。
君の目には、僕はどんな風に映っているのかな。それが知りたい。そう例えば――君がどれだけ僕のことを好きでいてくれるのか、とか。
ゆっくりとその距離を詰めていく。やがて耐えきれなくなったのか、彼女はきゅっと両目を瞑った。
その唇に、遠慮無く口付ける。
「……」
触れるだけのそれを終えると、彼女は頬を染めて恨みがましい視線を向けてきた。
「だって月子が目を瞑るから。こんなに顔が近づいていて目を瞑られたら、キスしてって言ってるようなものだと思うけど?」
「っ……!」
反論が思いつかなかったのか、彼女は軽く唇を噛んで、今度はじっとこちらを見つめ返してきた。
もしかして、根比べをしようっていうのかな、この僕と。面白い。受けて立とうじゃないか。もちろん、手加減はしないよ?
「……」
「……」
「…………」
「……っん、……――、……! ――!! ――っ、い、郁!」
「ああ、ごめん。もしかしてさっきの、まばたきだった?」
顔はほとんど離さないまま、確信犯的な謝罪を囁く。
呼吸が苦しいのか、それとも恥ずかしいのか、目の前の顔は真っ赤だ。
そのまま見つめていたら、きっと可愛い反論が聞けたんだろうけれど。
「っ――んむ」
今は彼女の声よりも、彼女そのものが気になる。
僕のことが好き?
僕は、月子が苦しくなってもまだキスを続けてしまうぐらい、月子のことが好きでたまらない。
それでも月子は、僕のことを好きでいてくれる?
月子を困らせて、試すような真似ばかりする僕を、いつまで好きでいてくれる?
彼女から返るはずのない答えを求めて、さらに彼女の唇を塞ぐ。空気を奪って――万が一、返らないとは言い切れない――拒絶も奪って。
「……!」
強引に絡め取っておいた手のひら。
その手が、めいっぱいの力で、こちらの手を握り返してきた。まるで、縋り付くように――食い下がるように。
それを認識した瞬間、もう何も考えられなくなった。
「――ん、ふ……っ」
苦しそうな吐息が耳に届く。
届くけれど、それだけだ。だって何も考えられなかったから。
そう、いつだって月子が悪いんだよ? 月子はいつだって僕を喜ばせる。それも自覚なしに。本当に、性質が悪いよね?
「……っ」
ぐったりとなった彼女から顔を離す。よほど苦しかったのか、目がちょっと涙目になっていて、またそれが可愛い。
「大丈夫?」
離した顔をもう一度近づけながら囁くと、誰のせいだとばかりに、いつもの強気な瞳で睨まれる。うん、月子は何をしても可愛い。
それに、そういう諦めの悪いところ、僕は結構気に入ってるんだ。
あ。ほら、だんだん頬が膨らんできた。
全く、本当に月子は、
「っ」
愛しさと可笑しさがこみあげたその瞬間。
彼女は全くの予動なしで、ソファの背に押し付けられていた体を前へ倒してきた。
ちゅ、と啄むような音が耳に届いたその時には、彼女は素早く顔を離し、ソファへと自ら寄りかかっている。
その顔が真っ赤なのは、言うまでもない。
「……」
何も言わずただ見つめ返していると、月子は気まずそうに目を逸らして、ぼそぼそと言った。
「……郁が、あんな近くで、目を瞑るから」
たぶん、仕返しのつもりなんだろうけど……言いながらさらに顔を赤くしてたら何の意味もないよね。
「ふうん? 僕は目を瞑った覚えはないんだけど?」
逸らされた側に顔を持っていって、彼女の瞳を見つめながら、顔を近づけていく。そのスピードが酷くゆっくりなのは、彼女に言い訳する猶予を与えてやるた め。
大体想像はつくけど……さて、どんな可愛い言い訳が聞けるのかな。
「わ……笑っただけだった、かな、ごめ――」
うーん。意外性なしで、まあ三十点ってところかな。
それじゃ、ギリギリ赤点ってことで、補修……じゃなかった、罰ゲーム。
「っ、んぅ……!」
今日何度目かわからない唇同士のやりとり。深く交わることにも、月子はだいぶ慣れたのかな。最初の頃は体ががっちがちに強張ってたし。
そういう初なところも、僕には新鮮ですごく楽しいわけだけれど――……って。
「ん……っ、んぅ」
言葉もない、とはこのことだ。
いつものようにされるがまま、むしろ僅かに逃げるような抵抗があって、ようやく大人しくなったと思ったら、月子の方から反応が返ってきた。
「っふ、ん……」
僕、前に言っておいたはずだよね、月子のペースに合わせるって。
なのに、どうしてそうやって無理に背伸びをしてくるのかな。そのままでも存分に可愛いのに、そんなことをされたらますます可愛いし――もう、どっちが悪 いのかなんて、明白だよね。
「ん、ぅ……――!」
手加減なしで、貪るように唇を触れ合わせる。
深く、もっと深く、今の時点でできうる限り、君と繋がれるように。
「……」
存外にあっさりと、月子は負けを認めてくれた。ほらね、お子様が無理をするからそうなるんだよ。
でもまあ、あと少しだけ、可愛い月子を堪能させてもらうかな。
……そういえば、いつもなら眼鏡が当たってしまうところだけど、今はそれを気にする必要がない。
うん、たまには眼鏡を外しておくのも悪くないかもしれないな。
もちろん、月子の前でだけ、だけどね。
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遊佐が事あるごとに「伊達眼鏡」を強調していたのでこうですかわかりません的な何か。
ていうか仮にもサイトは「メガネ部」なのにのっけから眼鏡レス話とか、私は一体どこに向かおうとしているんだ。