meganebu

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さあ、いちゃいちゃしようか。

A5/28P/300円
一深合同誌

 

一月×深琴本です。 
漫画(仲村)と小説(実月)で1本ずつ描(書)いてます。

 

本文サンプルは続きから。

 

 

☆仲村(漫画)

 

 

 

☆実月(小説)

 



 仕事から帰ってきた自分を迎えてくれるのは、愛する妻――といってもまだ式は挙げていないので、正確には近い未来の新妻――からの「お帰りなさいの挨拶」だ。
 毎日のようにしていても中々恥ずかしさが抜けないらしく、照れ気味に唇を触れさせてきた後、嬉しそうにはにかんできたりするのが実に可愛い。
 思わず食事も風呂も後回しにして寝室に直行したくなるくらいには。
 まぁそれを毎日実行しているとさすがに怒られるので、今日のところはぐっと我慢しておくことにして。
 代わりに、俺は持っていた紙袋を何気なく差し出した。
「……何?」
「今日もいい子で待っててくれた深琴にプレゼント」
「何よ、それ。子供みたいに……」
 軽口を微笑みながら受け流した深琴は、開けてもいいのと確認してから、受け取った袋を覗き込んだ。
 そうして取り出したのは長方形の小さな箱。無地で何も書かれていないそれをぱかりと開けて、彼女は大きな瞳を丸くした。
 こちらの顔を見上げて、語尾に疑問符を付けながら言ってくる。
「……体温計?」
「うん」
 にっこりと頷いてみせると、深琴は何の変哲もないそれを矯めつ眇めつしてから、今度は怪訝そうに言った。
「これを、私に?」
「うん」
 同じく笑顔で首肯する。それと反比例するように深琴の表情が険しいものへと変化していった。
「……くれるというなら貰うけど。でも、どうして体温計なんて。……見たところ、普通のものみたいだし」
 どうやら深琴は、わざわざ贈るからには何らかの価値がある物品なのでは、と考えたらしい。
 まぁ、ある意味当たりではある。何せこれは、価値のある贈り物には違いないのだから。
(少なくとも俺にとっては、……だけどね)
「そうだよー。ごくごく一般的な、何の変哲もないただの体温計。それ使って、毎朝体温測ってくれる?」
「は? どうしてよ。私、別に病気なんてしてないわよ」
「してなくても、平熱を知っておくのって大事なことだよ。体調の変化は体温に出やすいからね。それに……」
 どこかで聞きかじったことをもっともらしく言った後、ちょっと思わせぶりに間を置いて――続ける。
「この間のこと、忘れたわけじゃないよね?」
「っ、それは……」
 つい先々週の出来事を持ち出すと、深琴はぐっと言葉を詰まらせた。
 あの日、深琴は朝の時点で調子が良くないことを自覚していて、それを隠して俺を仕事へ送り出した。
 おまけに、家で大人しくしてればいいのに買い物へ出かけ、家まで戻ったところで力尽きた。
 仕事から戻ったら玄関先でへたり込んで動けなくなっていた彼女とご対面とか、……正直、あんな生きた心地がしないのは二度と御免だ。
(後で聞いたら、特売セールの日だったから買い物に行った、なんて本末転倒すぎる理由だったし……)
 当面の二人の目標である「結婚式」。その達成のために節約を心がけるのが悪いとは言わないけど、体調不良を押してまですることじゃ断じてない。
 治った後、もう二度と無理はしないと固く誓わせたのは言うまでもないし、身体の方にも無理させない範囲でしっかり教え込んでおいた。
(……健康って、本当に素晴らしいことだよね)
 一連の流れをざっと回想し、そのことを改めて実感した俺は、さらに鞄からノートを取り出した。
「で、毎朝計ったら、これに記録しておいて」
 深琴はぐうの音も出ないらしく、このノートも素直に受け取ってくれた。
「わかったわ。……それと、あなたに心配をかけたことも、本当に悪かったって思ってる。ごめんなさい。……ちゃんと、気を付けるから」
「うん、そうして」
 しょんぼりと肩を落としてしまった深琴の頭をよしよしと撫でてやりつつ、俺は心の中で舌を出した。
(――まぁ、それはただの建前なんだけど)
 その本音は、軽くオブラートに包んでみると「深琴と心置きなくいちゃいちゃしたい」、よりぶっちゃけた形にすると「深琴の基礎体温を把握しておきたい」だ。
 今は式の資金を貯めるための節約生活を続けてるけど、その式が終われば、俺たちは晴れて夫婦となり――そうしたら、次は子供だ。
 笑い声の絶えない家にするためにも、俺は全身全霊をかけて頑張るつもりでいる。
 ただ、ここで一つ問題がある。
 俺の機能的にも深琴の身体的にも問題はないから、その気になれば今からでも作れないことはない。
 けれど、ないからこそ、そこは計画的に行う必要があるわけで。
(式も挙げないうちから子供作るわけにいかないしね……かといって、隣で寝る深琴に何もするなとか、そんな生殺し生活俺には絶対に無理)
 子供を作るにはまだ早すぎるけれど、子供を作る行為はしたい。ものすごくやりたい。ていうかやらないと俺の生きる楽しみの大半が消失したも同然だ。
 よって、いざ子供を作るぞというその日まで、精神的な健康を保ちつつ健全な精神に則って色々と頑張っていきたい俺がまず知るべきなのが、深琴の基礎体温なわけだ。
 基礎体温を見ることで、子供が出来やすい時期とそうでない時期の目安がわかる。
 俺だって年がら年中発情してるわけじゃないし、出来やすい時期の間くらいは我慢できなくもない。
 第一、それ以外は我慢しなくていいわけだし。
(……とはいえ、本当の理由を知られたら怒られるどころじゃ済まないだろうから、絶対に言えないけど)
 あの日、ぐったりとした深琴を見つけた時は寿命が縮む思いをしたものの、真面目を絵に描いたような深琴を説得する材料かつ隠れ蓑にはなったわけで。
(おまけに、何だかんだですぐ無理しようとする深琴の体調も把握できるわけだし……)
『転んでもタダでは起きない』とか『一石二鳥』なんて格言を思い出しつつ内心ほくそ笑む俺を、俯きがちだった深琴が呼んだ。
「……ねぇ、一月」
「ん? 何かな」
「私だけじゃなくて、あなたもやったらいいんじゃないかしら」
「へ?」
「だから、あなたも計りなさいって言ってるの」
 控え目な提案らしきものを一足飛びで命令形にして、深琴が体温計を突き付けてくる。
「え、俺は別に」
「なら一月。あなた、自分の平熱を知ってるの?」
「いや、それはまぁ……知らないけど」
「だったら良い機会だわ。だいたい、あなただってすぐ無理しようとするし……」
「そ、そんなことないと思うけどなぁ」
「そんなことあるから言ってるの! そうよね、どうせなら習慣づけましょう。そうしたら忘れないで済むもの」
 自身の名案に表情を輝かせつつ、深琴はさっそくノートを開いて今後の日付を書き込み始める。
 うまく丸め込んだつもりが、逆に丸め込まれてしまった形だ。
(俺が計っても全然意味ないんだけど……それで納得してもらえるなら、まぁいいか)



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原稿中に二人して「今回ただいちゃいちゃしてるだけの話なんだけど……」と申告した結果がごらんのタイトルだよ!
略して「さよか」と呼んでました。

  • Category 頒布終了
  • Date 2014/06/21
  • By 実月
  • NORN9一深