ささやかな願い
短文ですがED後斎千。
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目覚めてすぐ肌に感じる、ひんやりとした空気。初めの頃は思わず布団の中に潜り込んでしまったけれど、今では随分と慣れた。
とはいえ、寒いものはどうしたって寒い。今朝も随分と冷え込んでいるようだ。ならば尚更早く起きて、火を入れなければならない。
(……よしっ)
気合いを入れ、腹筋を使い一気に体を起こした――その途端。
「ひゃ!?」
目をやった先には、私の右手首をがっちり掴んでいる大きな手のひら。それは隣の布団から伸びてきている。
布団から出した顔がどこか不機嫌そうに見えるのは、寝起きだから――だといいのだけれど。
「どこへ行く」
「どこって朝餉の準備です……おはようございます、一さん」
「おはよう、千鶴」
ちゃんと名前で呼んだにも関わらず、その手はいっこうに離れる気配がない。
「準備しないと遅れてしまいます」
「まだいいだろう」
「よくありません。もう、一さ――っきゃ!?」
手首が強く引っ張られた、知覚できたのはそこまで。
気が付いた時には、私の体はひどく強引かつ手際よく、隣の布団の中へと引きずり込まれていた。
全身を包む温もりが、布団のそれではなく生きている人のそれだと気付いてしまえば、一気に頭へ血がのぼる。
「ち、ちょっ、さいと――」
二人で夫婦として過ごすようになってからは、以前と比べ穏やかな日々が続いていた。
だから、というわけではないのだけれど――動揺のあまり、思わず以前の呼び名を口走ってしまう。
「……」
無言のまま、戒めだけがきつくなる。それを自覚して、私は慌てて言い直した。
「は、一さん!」
少しばかり間を置いてから、私を拘束する腕が緩む気配。どうやら許してもらえたらしい。
(……本当に、こんなところだけ、子供っぽいひと)
普段の彼からは想像もつかない、意外としか言いようのない彼の一面。
けれど、こんな態度を取るのは自分の前でだけ。独占欲や優越感といったわがままな感情が満たされて、愛おしさばかりが込み上げてくる。
「わかりました。もう少しだけここにいますから」
告げて、自分からもその逞しい体に腕を回した。
「ああ。それでいい」
私を抱き込むようにした一さんの唇は耳元に触れて、その低くて優しい声が直接鼓膜を震わせる。
吹き掛かる吐息はどこか懐かしく、よく通る囁き声は体の芯をぞくりとさせ――そんな様々な感覚をやり過ごしながら、私は幸せに目を閉じた。
――どうかこれが夢でありませんように、と。
そのささやかな願いは、ほんの数秒後に耳たぶを甘噛みした夫によって叶えられたというか証明されたのだけれど、それはまた別の話――
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斎藤さん斎藤さんと唱えながら「斎藤さんてどんな人か」を脳内で再構築したら「子供っぽい」という形で練成されただけだった!
お前は斎千つーと寝起きしか書けないのかとかいうツッコミ待ちなわけでは断じて。えろを書く時間がなかったから寝起きになっただなんてそんなそんな。