meganebu

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meganebu Paper -4

2011年8月21日 SUPER COMIC CITY関西17にて、無料配布していたペーパーです。

※印刷用データのため、一部読みづらいところがあります。ご了承ください。

 

 

「むぐー!」
「ちょっと、わかったから静かにして。ご近所から変に思われるでしょ」
 逃げようとした月子を後ろから押さえ込み耳元で囁いてやると、ようやく我に返ってくれたらしい。
 ゆっくりと月子の体から力が抜けていく。
「いい? 離すよ」
 彼女が首を縦に動かしたのを確認してから、口を塞いでいた手だけを離す。
 ぷは、と酸素を取り込み始めた月子は、やがて首を捻りこちらを見上げてきた。
 うん、その不服そうな表情も可愛いね。
「……郁?」
「何?」
「あの、離して」
「離したよ?」
 ひらひらと先ほどまで悲鳴をあげる口を押さえていた手を振ってみせる。
「こっちも」
 未だ彼女の体をがっちりと固めている腕に、おずおずと彼女の手が触れてきた。
「嫌だ、って言ったら?」
「郁っ」
 呼ばれた名前には、ふざけないで、という意志がこもっていた。
 最近の彼女は言葉の揚げ足を取られないようにするためか、短い単語の声色に意志を乗せることが多くなった。
 たくさんの言葉に換えなくても心が通じあえる――それは彼女との結びつきが強くなったのだと実感できて嬉しい反面、からかう要素が目減りしたことは素直に残念だ。
「だって月子、離したら逃げるでしょ」
「それは、……恥ずかしいし」
「月子の水着姿は海に行くまでお預けだと思ってたから、いいサプライズだったよ」
「~っ」
 月子は顔を真っ赤にして、勢いよく首の位置を戻してしまった。その上で、両耳がどんどんと赤味を増していく。
(本当、可愛いね)
 だから、耳元に顔を擦り寄せるようにして、囁く。
「そんなに恥ずかしい?」
「っ……あ、当たり前だよ」
「見たのは僕だけなのに?」
「郁だから余計に恥ずかしいの!」
「どうして?」
 はむ、と耳たぶを甘噛みしてやると、びくりと月子の体が震えた。
「い、郁……っ」
「僕はもう、月子の色んなところを見た気がするけど」
「――っ!」
 耐えられなくなったのか、月子が大きく身じろぎする。
 けれど、当然離してやるつもりは一つもない。
「ほら、暴れても無駄だよ。抜けられないのは知ってるよね」
 じたじたと無駄な抵抗を続ける月子を強く抱き込んでそうダメ押ししてやると、やがて先程と同じように力を抜いてくれた。いい子だ、とわざと音を立てるようにして、甘噛みした箇所にキスをしておく。
「じゃあ、素直な子に免じて、月子の水着姿を堪能するのは海まで我慢するよ」
「……本当?」
 意外そうな声が返ってくる。
 もちろん、タダでというわけにはいかない。
「うん。でもその代わり、今からする質問に素直に答えること」
「えっ」
 肯定も否定も答える暇を与えず、さっさと質問に移る。
「さっきの、どこであんなポーズ覚えたの?」
「ど、どこでって……雑誌のモデルさんがしてたなって思って」
「ふうん、そうなんだ。で、ちょうど僕が帰ってきた時にあんなポーズをしたなんて、もしかして僕を誘ってたのかな」
「っち、違います!」
 即座に否定された。まあもちろんそんなわけはないだろうとわかっているけれど、でも面白くはない。
「そう、それは残念。ならあのポーズは海に行った時に見せてくれるってことかな」
「え」
「そのために練習してたんでしょ?」
「違います!!」

 そうして気が済むまで月子をからかい続けていたら、結構な時間が経ってしまっていた。


***


「……三十八度一分」
 受け取った体温計を見て、呆れたように数値を読み上げてやる。
 熱で潤み気味の瞳を逸らしながら、ベッドに横たわった月子は口元を隠すように布団を引っ張り上げた。
「ほら、そんな顔しないの。楽しみすぎて熱を出すなんて、本当に月子は子どもだね」
「違うもん……」
 力なく否定する月子。その口調がどこか子どもっぽくなっているのも熱のせいだろうか。
 まったく、これだからお子様は。
(どんな時でも可愛いから、困るよね)
 額に乗せた濡れタオルを持ち上げ、額にかかる前髪をよけてやる。
 それから、そっと頭を撫でた。
「ごめん。確かに、いつまでもあんな格好でいさせた僕の責任でもあるね」
 だから、と頭をもう一撫でしてから、額に畳みなおしたタオルを置いた。
「早く治して一緒に海へ行こう?」
「……うん」
 ゆっくりと月子の顔が微笑んだのを確認してから、つい、悪戯心を抑えきれずに続ける。
「月子の水着姿が見れるの楽しみにしてる。もちろん、あのポーズもね」
 すると、笑顔だった月子の顔がびしりと固まって、その色が真っ赤に染まっていき、そして。
「郁!」
 涙目で怒られてしまった。おまけに、布団の中から腕を出したかと思うと、へろへろのそれで叩こうとしてくる。
 その腕をやんわり押さえて布団へと戻してやりながら、ごめんごめんと吹き出しながらも謝った。
「月子と二人で遊びに行くの、楽しみにしてるから――本当に」
 押し戻した手を布団の中でぎゅっと握り、素直な気持ちを告げてみる。
 月子はあっさり大人しくなって、こくりと頷いた。
 月子が眠るまで握っていた手はひどく離しがたくて、いつの間にか自分も眠ってしまっていた。
 目を覚ました時、みー助まで布団の上で丸くなって寝ているのを見たときには、いっそ写真でも撮ろうかと思ったくらいで。
 月子の額からずり落ちそうになっているタオルを取り上げ、そっと指先を触れさせてみる。
 どうやら、もう熱は下がったようだった。
「……楽しみだね」
 水着姿もだけれど、何より。
 心の底から楽しそうな月子を見るのが――本当に、楽しみで仕方なかった。



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いえーい、いつだったか仲村さんと無駄に盛り上がった水着ネタを形にしてやったぜヒャッホーイ!(実月)

三角ビキニはさすがに刺激が強いかなーって思ったのでああなりまんた。(仲村)