meganebu Paper -2
2010年6月6日ラヴコレクション2010にて、無料配布した小冊子に掲載していた漫画+小説です。
※印刷用データのため、一部読みづらいところがあります。ご了承ください。
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見ると、クリームが少しだけ指に残ってしまっていた。
怖いもの見たさというのか、これぐらいならもう一度食べてみても平気かなと魔が差して、人差し指を軽く食むようにしてクリームを舐め取る。
「……ん? どうしたの」
やや涙目で顔を真っ赤にした月子は、多分ずっとこちらを見ていたに違いない。
目を合わせた途端、逃げるように俯いてしまった。
「どうして目を逸らすのかな」
顔の横に垂れた髪を避けてやり、指先を月子の顔に触れさせる。
月子はびくりと震えたけれど、逃げようとはしなかった。
だから、そのまま顔の輪郭をなぞるように指を滑らせて、ゆるく顎を掴む。
「顔を見せて」
「……っ」
声と、指先に込めた僅かな力だけで、月子は大人しく顔を上げてくれた。
「ただの味見で、そんなに恥ずかしがることないでしょ」
「たっ、ただのって……」
「違うの? まあ、僕の指を一生懸命舐めてる姿は本当に可愛かったけど」
「――!!」
瞬間、月子の両腕が勢いよく自分を押し返してきて、バランスを崩――すわけがない。
さっきの口直しの時は目を瞑っていたけど、今回はそうじゃないし。
というか、月子の行動なんて予想済みだ。
顎を掴んだ右手はそのままに、もう片方の手で月子の右手首を掴んで引き寄せて、互いの顔の距離が五センチになるあたりでしっかり固定。
「ほら、暴れないの」
「っい、郁」
「何? 言いたいことがあるなら言ってくれないと」
「……」
「ないの? ないなら……どうしようかな」
まだ涙目っぽい瞳を覗き込むようにすると、月子は慌てて言った。
「あっ、ある、けどっ……」
「あるんだ。じゃあ言って」
「ぅ……郁。こ、このままだと、あの、喋りにくいから……」
「そうかもね。でも今も喋れてるし、小さな声になってもちゃんと聞き取れるから平気だよ」
月子の目は「私が平気じゃない」と訴えてきているけれど、うんまあ、無視。
「ほら、何?」
「……さ、っきは、ケーキ、ごめんなさい」
「うん。でも、さっきも謝ってくれたからもういいよ。他には?」
「ぁ……味見も、してなくて、ごめんなさい……」
「本当にね。まあ、僕のために頑張って作ってくれたのは、素直に嬉しい。ありがとう」
「う、うん……」
にっこり笑って、そのまま月子を見つめ続ける。
「……ぁ、あの、郁……」
弱々しい呼び掛けも、当然無視。
次第に月子の顔が強張っていき、三十秒を少し過ぎたあたりで音を上げた。
「郁っ、そろそろ離して欲しいんだけど……っ」
「えー。どうして?」
「ど、どうしてって、あの、首とかちょっと痛いし……」
確かに、ずっと首を上向かせた状態で固定してるし、痛いのは本当かもしれない。
そっと月子の顎から指を外してやる。
「……」
月子はまた顔を赤くして俯いてしまった。
(本当に可愛い)
味見なしの手作りケーキ(激マズ)を持ってきたかと思えばつまづいて頭からひっ被らせてくれたとしても、……まあうん、許せるくらいには可愛い。
(……けど、ちょっと物足りないかな)
このケーキは自分への誕生日プレゼントの一環なんだろう。
だとすると、頭で受け止めて食べられなくなってしまったことで、これはプレゼントとしては成立しないんじゃないんだろうか。
もちろん、頑張って作ってくれたことについては、さっきも告げた通りものすごく嬉しい。その気持ちは有難く受け取っておこうと思う。
でも、ケーキを頭からひっ被るとか、プレゼントどころか罰ゲーム以外の何物でもない気がする。
(まあ、普通に受け取ったところで、完食すること自体が何よりの罰ゲーム、っていう気がしないでもないけど……)
とにかく、祝われる側としてはやり直しを要求したい。
いやケーキを作り直して来いってことじゃなくて、何か、その代わりになる、別のものをプレゼントしてもらいたい。
(……僕としては、お祝いしてもらった身でさらにプレゼントを要求するのって、あまり気が進まないんだけど)
空々しい言い訳を心の中で呟いてから、月子の名前を呼んだ。
赤いままの顔を上げた月子に、安心させるように柔らかく微笑みかける。
「聞くまでもないかもしれないけど……さっき、味見してみてどうだった?」
「ぅ……その、おいしくなかった、です」
「そう。どのくらい?」
「えっと……ものすごく……あの、ごめんなさい……」
「何謝ってるの? それについてはもう謝ってもらったから気にしなくていいよ」
「う、うん。つ、次はこうならないように頑張るから」
月子はぐっと両手を握りしめて宣言した。
(懲りてないんだ……)
いやまあ、味見してやばいと思ったら持ってこないだろうし、大丈夫……だと思うことにしよう。うん。
「ま、まあそれはいいとして。……さっきのケーキ、まだ口の中に味が残ってたりするんじゃない?」
「……」
月子は黙って、気まずそうに目を逸らした。
(図星、みたいだね。まあ、僕もそうだったんだけど)
――だから、僕は嘘はついてないんだよ?
「それじゃあ」
再び月子の顎を掴んで、やや強引に上向かせる。
「口直ししようか」
「……え?」
「だから、口直し。やり方は、わかるよね?」
「やり方……って、え」
「あれ、わからない? じゃあもう一回お手本を見せようか」
「っい、いい! いいです!」
「そう? じゃあ、はい」
「くっ口直しもいいから!」
月子の手がこちらの腕と手を掴んで、力任せに引き剥がす。
もちろん、すぐに捕まえなおす――逃げようとした手首をがっちりと捕獲。
「いっ郁、は、離して」
「嫌だ。……って言ったら、どうする?」
「……っ」
「ねえ。今日って何の日だっけ」
「……郁の、誕生日」
渋々、といった様子で答える月子。
その月子を尻目に、顔だけ明後日の方向へ向けて、堂々とぼやいてみせる。
「誕生日ぐらい、彼氏のワガママを聞いてくれてもいいと思うんだけどなー」
顔の位置を戻すと、月子はものすごく何かを言いたそうな目で自分を見ていた。
というか、何やら小声でぶつぶつと呟いている。
「ん? 月子、何か言った?」
「……っ、わ、わかったから! は、離して!」
じっ、と月子の目を見る。
一瞬怯みかけて、けれど月子はその場に留まった。これは、徹底抗戦の構え――と受け取ってもいいのかな。
掴んでいた手を解放する。
「――」
月子は掴まれていた所を軽くさすりながら、けれどそこから動かない。
「どうしたの? しないの? 口直し」
「っし、します。……するから、め、目を閉じてて」
「えー? 月子がうまくできるかどうか見てないと」
「見てなくてもできるから!」
「……へえ、そう? それは楽しみだな」
「~~っ!」
これ以上ないくらい顔を赤くした月子が絶句しているのを一瞥して、さっさと目を閉じる。
やがて、近づく人の気配。
震える指先がそっと頬に触れてきて、小さく吐息が吹き掛かる。
「――っ」
躊躇いがちに触れてきた唇は、ひどく柔らかくて、どこか熱っぽい。
言われた通り目を閉じたまま、細い腰にそっと手を添えて。
(――さて、お手並み拝見、かな)
結果として、口直しが終わるまで三回ぐらいやり直したりしたけれど――まあ、プレゼントとしては概ね満足できたとだけ、言っておこうかな。
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我々にはときめきが足りないという結論に達したのでときめき強化週間でした。
よしちゅーだ→それ前回とオチ一緒じゃね?→よろしいならば指ちゅぱだ
……指ちゅぱはときめきだと信じて疑わない私が悪いんでしょうか(確実に)
ちなみに新刊のMM2の裏表紙→ノベルティ絵→無料配布表紙、と地味に話が続いてたりしました。(実月)
水嶋は無駄にエロ行為はさむのがデフォルトだと信じてやみません。
むちゃいってまじすまんかった(全方位に向けて)(仲村)