meganebu

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meaning of birth

SRXの黄金エンド設定でレスアキのようなレスポール誕生日話。

※一年前のスカレダイニングのタクレスバースデー時のランチョンマットにあったレスポールのコメントをネタ元にしてるので、分かる人にしか分からない話ですみません。
(分かる方は、本文中でアキラが受け取ったカードに件のコメントが書いてあると思っていただければ幸いです)
 

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 用を済ませて手を洗い始めてから、先にポケットからハンカチを出しておくべきだったと気付いた。
 久し振りのお祭り騒ぎに皆が浮かれていた。そして、それは自分も例外ではなかったということだろう。
 そんなことを思って、アキラはそっと苦笑した。洗い終えた手で水道を止めて、制服のショートパンツをなるべく濡らさないよう指先だけを使い、そこそこ苦心してポケットから折りたたまれた布を引っ張り出す。
「……あれ?」
 ハンカチを取り出すと同時、彼女の視界にひらりと白いものが映り込んだ。反射的にそれを目で追うと、四つ折りにされた紙片が床に落ちる。
 しっかりと両手の水分を拭き取ってから、アキラはそれを拾い上げた。
 やや雑に折りたたまれた、ポストカードのような材質のそれを開いてみる。大きさはA5よりもやや大きい程度で、中には手書きではなく印字された文字が並んでいた。
 文面に目を通し、アキラはまず自分の記憶を掘り起こしにかかった。
(……トイレに来た時、こんなもの落ちてなかったわよね。落ちてたら気付くだろうし。ということは、やっぱりわたしのポケットに入ってたって考えるのが妥当よね)
 だとすると、このカード(のようなもの)を用意した相手は、いつの間に自分のポケットに忍ばせたのだろうか。
(ううん……あ、そういえば)
 今日のお祭り騒ぎこと、合同誕生日会が始まってすぐ、何故か主役を胴上げする展開になったことがあった。
 発端は「あまりタクトを持ち上げるな」という窘めの一言を受けたフェルナンデスの「持ち上げればいいのか? よっしゃあー! そぉーれっ」と威勢の良いかけ声と共に主役であるタクトを上方に放り投げたことによる。
 重力に逆らう力を持たないタクトは、当然ながら地上へと落下する。床との衝突を防ごうと皆でばたばたと動くうちに、いつの間にか胴上げのような状態に発展していたのだ。
(あの時かな……結構わやくちゃだったし)
 それにしても、他人からポケットに物を突っ込まれても気付かない自分というのもどうなのだろうか。
 まあ、他人のポケットへ勝手に物を突っ込む方もどうかとは思うが――その「常識」があまり通じなさそうな相手から、このカードは届いていた。
(……とにかく)
 折り開いたそれを元のようにたたみ直し、左手の中へそっと握り込むと、アキラは急いで会場へと戻ることにした。





「デュセン」
「あら、アキラちゃん。どうしたの?」
 声を掛けた相手へもう半歩ほど歩み寄り、アキラは既に何度も確認した室内をもう一度見渡しながら、問いかけた。
「レスがどこに行ったか知らない?」
「レスちん? ……あら、ホントね。さっきまでそのへんに居たと思ったんだけど」
 一緒になって室内を見回しながら、おかしいわねと首を傾げるデュセンバーグ。
「ひひゃひーひゃひー」
「あら、リッくん。そうなの?」
 話が聞こえたのか、リッケンバッカーが何事かを伝えてきた。アキラもその独特の言い回しを解読しようと試みたが、失敗に終わった。
「レスちん、さっきあそこから出て行ったんですって」
 あそこ、とデュセンが指し示したのは、何のことはない部屋の入口だった。というか、入口はそこしかないのだから、そこから出て行ったのは当たり前ではあるが。
「ありがと、リッケン。デュセン」
 短くお礼を告げて、アキラは目的の人物が出て行ったとされる扉へ向かう。
 その後をついていこうとしたリッケンバッカーを、デュセンバーグが慌てて引き留めた。
「ひゃひ?」
「ダメよリッくん。今日はレスちんの誕生日なんだから、レスちんに花を持たせてあげなきゃ」





「ここにいたんだ」
 ようやく見つけ出したカードの差出人は、海辺近くの岩に座っていた。
「アキラこそ、こんなところを一人でぶらぶらしてるなんて、寂しい奴ー」
「レス、そのセリフはそっくりそのまま返すわね」
「別におれは寂しくなんかないしー」
 拗ねた子供のようなセリフだった。
 まったく、と小さく溜め息をついてから、アキラはポケットから紙片を取り出した。
「これ、いつの間に入れたの?」
「……なーんだ。もう気付いちゃったのか。つまーんないの」
 ふい、と興味なさそうにそっぽを向くレスポール。その視界の端に映るあたりまで、アキラは歩みを進めた。
「ねえ、これってレスが作ったの?」
 サブスタンスと言語による意思疎通はできるものの、言葉を文字にする場合は甘粕による代筆がほとんどである。
 それを介さずに紙媒体でメッセージを伝えてくるということは、一体どんな手品を使ったのだろうと思ったのだ。
「まあねー。デンポーってやつ? あれ頼んだんだー」
(電報? 確かにそれなら、文字を書く必要はないか……)
 もちろん、実際に電報を頼んだのはオペレーターズであり、タクトの部屋から勝手に持ち出したアキラの隠し撮り写真により買収された結果であることは、アキラには知る由も無い。
 そこで会話が途切れたのは、アキラがもう一度文面に目を通していたからだった。
 ざざ、と繰り返される波の音が場を繋ぐ。
「レス」
「んー?」
 レスポールは生返事をするだけで、アキラの方を振り向くことはしなかった。
 それでも、ちゃんと聞いてくれてはいる。それがわかっているから、アキラはそのまま続けた。
「ここに書いてあること、確かにわたしにはちょっとわからないけど……」
 レスポールからのメッセージは、半分くらいが理解不明な文字列で構成されていた。もちろんきちんとした日本語ではあるのだが、どういった意味なのかがわからない。
(「捨てたくないのに捨てられちゃう」……何のことなのかな)
 とはいえ、聞いたところで答えてはくれないだろう。
 文面の最後に「わかんなくてもいーんだよ」などと記されているのは、要するに最初から理解させるつもりがないのだろうから。
「でも、レスの気持ちはちゃんと伝わってきたから。ありがとう」
 相手に理解させるつもりのないことを、わざわざ伝えてくる。そのどこか矛盾した行為に、意味を与えるとするならば。
(たぶん、わたしはもっと知らないといけないことがたくさんあって……でもレスは、わたしは知らないままでいいって、そう思ったのよね)
 ある種の「警鐘」であると同時に、「思い遣り」だったのではないか。
 だから伝えるべきはまずお礼だろうと、アキラはそう思った。
「あっそ」
 レスポールからは気のない相槌が返ってきただけだった。
「おれさー、あんまりよく覚えてないんだよね」
 唐突に話題を変えたレスポールを、アキラは驚いたように見つめた。
「おれはタクトと一つになって、それでタクトは紅の世界の住人になった」
 先ほどと同じく、レスポールはアキラの方を向くことなく――ただ正面に広がる夜の海を見据えたまま、喋り続ける。
「なのに気が付いたらおれたちは別々になってて、赤も青も関係ない世界になってた」
 そこで初めてレスポールは振り向いた。
 腰を下ろしている岩の上から、砂浜に立つアキラを見下ろし、告げる。
「これって、夢なんじゃないの?」
「え?」
「本当の世界はもうなくなっちゃってて、おまえの願望だけが残って夢を見てるとかさ」
 それは突拍子もない話ではあったが、否定できるような理由が見当たらない。
 実際、アキラ自身も、この奇跡と呼ぶほかない世界について、何もわかってはいなかった。
「……そうなのかも」
 力なく微笑んで、けれど、アキラは言った。
「でも、仮に夢だったとしても……だったら、楽しまないと損かなって」
「ふーん」
 つまらなさそうに言ってから、レスポールはどこか不敵な雰囲気をもって、言った。
「そーいうの、嫌いじゃないかな」
「そっか」
 破顔したアキラを見て、レスポールは思う。
 この夢かどうか判別もつかない世界で、自分たちはただままごとのような箱庭の暮らしを堪能しているのかもしれない。
 ただそれでも、黄金色の中から生まれたこの世界は美しいと感じたし、この世界を選択した彼女自身もまた、同じように――それ以上に美しいとも思えた。
(なあタクト。おれたちは、このために生まれてきたのかな)
 彼女という世界を救うために。
(そのために、おれたちは生まれてきた……――なーんてね)
 そうしてどこか上機嫌に、レスポールが口を開いた。
「なーアキラー。おまえさ、タクトにも言ったのか?」
「何を?」
「たんじょーびおめでとーってさ」
「うん、言ったよ」
「それって……二人きりとかで?」
「ううん、皆の前で」
「……かわいそうだなー、タクト」
 何故かタクトを哀れみ始めたレスポールに、アキラはやはりよくわからず首を傾げるばかりだ。
「しょーがないなー、おれが一肌脱いでやるか。アキラ、タクト呼んで来てよ」
「え?」
「二人だけで話がしたいとか何とか言えばすぐだろーし、早く」
「? えっと、レスが呼んでるって言えばいいのね?」
「ちがーう! おまえと二人で、って言えよなー。ほら早くしろよー、今日の主賓の命令だぞー」
「もう……わかったわ。そう言って呼んでくればいいのね?」
「そうそう」
 仕方ないなあとぼやきながら、アキラはタクトを呼びに小走りで駆け出した。
 戻って来ると誰の姿もなく、やがて二人が良い雰囲気になったところでじゃじゃーん、と飛び出すイタズラを練りながら――レスポールはうきうきと二人の戻りを待った。




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フルコンプ後にどんな形でもいいからとにかくレスポールをなんとかしたいと思い続けてそしてスカレダイニング行ってランチョンマットに轟沈してうわああああああレスううううううううううと悶え転げて走り書きしたものを一年越しで発掘して形にしました何で一年もかかったんだ……。

ともあれタクレスハッピーバースデー!! おめでとうありがとう君らがいたから教官は助かったんだ本当にありがとう……!!

  • Category スカーレッドライダーゼクス
  • Date 2014/03/30
  • By 実月
  • 小説SRXレスアキ