Lifetime Commitment
A5/44P/400円
郁月合同誌(18禁)
成人向けの内容を含むため、未成年の方への販売・閲覧は禁止いたします。
郁月はぢめて物語的な1つの話を、仲村(漫画)と実月(小説)で描(書)いてます。
本文サンプルは続きから。
☆仲村(漫画)
☆実月(小説)
夜道を彼女と腕を組んで歩く。
でもそれは、艶っぽい雰囲気がそうさせているわけじゃない。
ほんのり酔った彼女の足取りがおぼつかなかったから、強制的に掴まらせているだけの話。
根が真面目な彼女は成人するまでアルコールの摂取を甘酒程度に留めていたようで、酒の飲み方なんてこれっぽっちもわかっていない。
けれど、大学生になり成人したとなれば、何だかんだで飲みの場も増えてくる。
それが女友達とならいいけれど、ゼミやサークルの集まりとなれば必然的に野郎が関わってくるわけで――そんな場に飲み慣れていない彼女を放り込むなんて、冗談じゃない。考えただけで頭がおかしくなりそうだ。
そんなわけで、彼女にお酒の飲み方を教えることにした。
といってもやっていることは、デートで食事をするときにお酒を頼むだけ。
こういうのは一気に飲むと回りやすいから注意して、とか小言っぽいレクチャーをしつつ、ちょっとずつ強いお酒を口にさせる。
三回ほどそれを続けてみてわかったことは、月子はお酒に弱いわけではないけれど、強いわけでもない、ということだった。
今日は「郁が飲んでるのってどんな味がするの」と聞かれて、ちょっとだけ飲ませたやつが後を引いているようだ。 こんな調子じゃ、もう少し酒に慣らさないと飲み会には行かせられそうにない。
「郁……」
「ん、何?」
「……ふふ、何でもない」
ふわふわした声で言って、月子が組んだ腕に擦り寄ってくる。
思っていたより酔いが回ってるみたいだ。
「甘えてくれるのは嬉しいけど、ほら、ちゃんと歩いて。危ないから」
「歩いてるよ」
「歩けてないから言ってるの。……まったく。飲み会はまだ行かせられないな」
「えー……友達からも誘われてるのに」
「女の子だけで飲むならいいよ」
「……ゼミの皆と」
「じゃあダメ」
「郁の意地悪」
「僕が意地悪なことくらい、月子は知ってるでしょ」
むー、と口を尖らせる月子。
酔ったせいかいつもより言動が子供っぽくなっていて、それがまた本来の可愛さに拍車をかけている。
(……まったく、これだからお子様は)
本人にその気は無くても、周りから見たら誘ってるようにしか見えない。
だというのに、あれぐらいの酒でここまで酔っぱらうんだから、彼女はお子様以外の何者でもないわけで。
そういうところは、本当にタチが悪い。
「……郁」
しばらく歩くと、ふて腐れていたのか黙ってしまった月子が、口を開いた。声の調子が少し落ち着いてきたかもしれない。
「何かな、お姫様」
「……郁は、明日、お休み?」
「一応はね。ちょっとだけ持ち帰ってきた仕事があるけど」
「そ、そう……なんだ。……私も、明日は、お休み」
夜闇に慣れた目と、近くの街灯のおかげで、腕を組んだまま俯いた彼女の耳が随分と赤くなっていることには気付いていた。
もちろんそれが、アルコールのせいだけじゃない、ということも。
「そう。なら、二日酔いになっても安心だね。さあ、早く帰ろう。ちゃんと家まで送って行くから」
「……うん」
その後の彼女はすっかり静かになってしまい、二人分の靴音だけが夜道に響いた。
彼女が暮らす家の前で別れを告げる。
建物の中へ消えていく背中が随分としょんぼりしていたように見えたのは、きっと気のせいじゃないんだろう。
彼女の部屋に灯りが点いたのを確認してから、来た道を戻り始めた。
(……もしかして、半分演技だったのかな、あれは)
彼女が飲んでみたいと言ったお酒はそれほどアルコールが強いものではなかったはずだし、ちゃんと胃に物を入れた状態で飲ませたから、一気に回ったとも考えにくい。
(酔った勢いで、……なんて、なりふり構わなくなってきたね、あのお姫様は)
まあ、酒でも入れないとあんな大胆なセリフが言えなかっただけかもしれない。けど、それにしたってちょっとやりすぎだ。
彼女と付き合い始めて数年。
未だに手は出していない。まあその分キスはしてるけど、本当に、そこまでしかしていない。
ここから先はゆっくり進めていく。
付き合い始めの頃に告げたその言葉を嘘にするつもりはなかった。
月子という存在を何よりも大事にしたいと、心からそう思ったから――
(……でもさすがに、二十歳過ぎても何もされないんじゃ、不安にもなる……かな)
最近、どことなく月子が大胆な行動に出ることがある。それは悪いことじゃないとは思うけど、良いことでもないように思う。
一線を越えるのなんて簡単だ。やり方なんてわかりきっている。
けれど、それをしないのは――できないでいるのは。
相手はあの、鈍感で天然で、未だにちょっとしたことですぐ真っ赤になるお子様なのだ。
もちろん、押し倒してそこから先に進んだ途端、嫌だと泣き喚かれるとは、さすがに思ってはいないけれど。
(でも、……それに近い事が起きたとしたら、それはそれでちょっと傷つくね)
だから、変に急ぐことはない。
彼女の心がもっと大人に近づくまで、その身体を求めるのを先延ばしにしている、それだけのこと。その方がきっと、お互いに心穏やかに事を済ませられるはず――
(……って、その結果が酔った勢い、だよな。……まったく)
端的に言えば、きっと自分は怖いのだ。
一歩踏み込んだその先に、変わらぬ笑顔が待っているかと言われたら――その確証は、残念ながらどこにもない。
彼女のことを信じていないわけではない。
信じている。
信じたい。
けれど。
どうやっても、その万が一――いや、億が一の可能性を、払拭することができずにいる。
(……これじゃ、僕の方が青臭い子供みたいだ)
それこそ、彼女のことを――あんな行動に出てきた月子のことを「お子様」と笑えはしない。
きっともう、誤魔化すことはできないだろう。
今日のやりとりで、自分が彼女の意図を看破した上で受け流したことは、確実に伝わってしまっただろうから。
このまま下手に誤魔化し続ければ、あのお姫様は何をしでかすかもわからない。
彼女は変な所で大胆というか、こちらの事情などおかまいなしに無茶をするというか――まあつまるところ、どうしようもなくお子様だってこと。
(でも、そんな月子だから、僕は……)
どんなに突っぱねても強引に踏み入ってきて、私を信じてと繰り返した月子。
その、空気を読んでいるようでまったく読まない、無頓着さ。
何度汚いものを見せ付けてやっても、綺麗なものは在ると信じて疑わない、純粋さ。
(そんな月子に絆されて、今の僕がここにいる……だから)
いいかげん覚悟を決めよう。
これ以上、僅かな可能性に怯えていても仕方がない。
きっと自分はもう、彼女なしではいられないのだから。
携帯を取り出し、スケジュールを確認する。
調べなければならないことをざっと頭の中でまとめて、ぱちりと携帯を閉じた。
----------------
メガネが色々とめんどくさい話です。
また、年齢指定箇所は文章のみです。