meganebu

Gallery

Half-birthday

千こはで千里きゅんはぴば話。
2月のラヴコレで無配できたらよかったけどできなかった何かを今更ながらリベンジ。

 

<

p>



「今日は本当に楽しかったですね、千里くん」
「はぁ……どちらかというと僕は疲れました……」
 食堂から部屋までのそう遠くはない道のりをこはるさんと二人で歩きつつ、僕はぐったりと答えました。
 ついさっきまで、食堂ではそこそこ盛大なパーティー的なものが催されていました。その名目は市ノ瀬千里バースデーパーティー。そう、僕の誕生日を祝う会というやつです。
 まぁ最初はそこそこ僕をお祝いする体を保っていましたが、途中からどうしようもない大人や悪魔が騒ぎを起こし始めたおかげで、心の底から「楽しい」と思えた時間なんてごく僅かでした。
(別に誕生日なんて祝うほどのものでもないですし、……そもそも僕の誕生日とかどこ情報なんですかね)
 僕はノルンに来てから自分の個人情報を明かした覚えはありません。
(こはるさんにだって言ってなかったはずです……一体どこから……)
 可能性が高そうなのは件の悪魔あたりです。僕を陥れるべくどこからか個人情報を手に入れていてもおかしくありません。
「あ、あはは……確かに、最後の方は、ちょっと色々ありましたけど……でも、皆さん悪気があってやったわけじゃないと思います。それに今日の準備は、皆でやったんです。千里くんをお祝いしようって」
 普段の素っ気ない食堂からは想像もつかないレベルでデコられた過剰装飾(乙丸さん主動によるものだと後から聞きました)、豪勢極まりない上に僕好みの料理が所狭しと並べられ、真ん中に鎮座する巨大バースデーケーキ(当然ながら宿吏さんによるもの)、バースデー企画と銘打って披露された一発芸大会(発案者があの悪魔であることは途中から企画に巻き込まれてさんざんな目に遭わされた僕が断言します)、……どれもこれも手が込んでいたことは否定しようがありません。
「……別に、そこは疑いませんよ。あなたがしばらく僕の部屋に来なくなったのもそれが理由なんですよね」
 ジト目を向けると、こはるさんはばつが悪そうに笑みを浮かべました。
「あ……はい。すみません、これは「さぷらいず」だと言われたもので……」
「サプライズなら、逆に普段通りにしないと意味ないと思いますけど」
「そうなんですが……その、楽しみすぎてつい話してしまいそうになるので、会いに行きづらくなってしまって……」
 はぁ、とため息が出ました。
 ここ数日の間、避けられてるとしか思えない行動を取り続けられ部屋で一人引き籠もりながらぐるぐる悩んでいた僕の身にもなってもらいたいところです。
「……あなたはそういうの向いてませんしね。次からは止めた方がいいと思います」
「う……はい。そうですよね、次からはちゃんと、千里くんに迷惑をかけないように「さぷらいず」できるよう頑張ります!」
「いえ、そういう意味じゃなくてですね……」
 二度目のため息をつきかけて、僕はこはるさんの言葉にはっとなりました。
 『次から』。
 こはるさんは確かにそう言いました。
(……そうでした。来年だけじゃなくて、再来年も、その次も……ずっと、僕とこはるさんは離れることはなくて――)
 そこまで考えて、僕はあることに気付きました。
(こはるさんの誕生日……)
 それがいつであるのかは、本人にもわからない。
 誕生日会の最中にその話題になった時、こはるさんはいつものふわりとした笑みを崩さぬまま、まるで他人事のように説明してくれました。
 誕生日を祝う行事があることは本で知っていたけれど、自分はいつがそうなのかわからないので、「バースデーパーティー」なるものに憧れていたと。
 実際にそれを行うことができてとても嬉しいと。
『しかもそれが千里くんのパーティーだなんて……わたし本当に嬉しくて!』
 嘘偽りない喜びに満ちあふれるこはるさんの声が、脳裏に蘇ります。
(……そこまで喜ぶことじゃないでしょ、それ……)
 嬉しいけれど素直に喜びきれない。
 そんなよくわからないもどかしさを持て余していると、こはるさんが嬉しそうに言いました。
「ふふっ、来年が待ち遠しいです」
 来年になれば確かに、僕の誕生日がやってきます。
 そしてそれは、こはるさんの誕生日だって同じはずで。
 ただ、それがいつのことなのかが、わからないだけで。
(もしかしたら明日かもしれないし、明後日なのかもしれません。……まぁ、それを言ってたらキリがないですけど、でも)
 僕にもこはるさんにも、誰にもわからないけれど――でも、必ずあるはずです。
 こはるさんがこの世に生まれてきたことを、心からお祝いするべき日が。
(……だったら)
「一年も待つことないんじゃないですか」
「え?」
 そう言って、僕は歩くのを止めました。
 それに気付いたこはるさんも立ち止まって、一歩半くらい先に進んだ位置から、僕へと向き直ります。
「僕のだけじゃなくて、他にもあるでしょ。誕生日」
「あ……そうですよね。深琴ちゃんや、七海ちゃんにもありますよね! そうでした、お二人の誕生日も聞いておかなくては……!」
「いやそうですけど、そうじゃなくて!」
「? あ、では駆くんや暁人くんの――」
「そんなのはどうだっていいです特に悪魔の誕生日なんて祝うどころか完全なる厄日としか言い様がないじゃないですかお祓いとかする必要がありますよね後で確認しておかないと……」
「は、はぁ……」
 心のメモに最優先事項の一つとして記し終えてから、僕はゴホンとわざとらしい咳をして仕切り直しました。
「あなたのですよ」
「え」
「こはるさんの誕生日があるじゃないですか」
 そこで初めて、こはるさんは困ったような笑みを浮かべました。
「そう、ですね。……でも、わたしの誕生日はわからないので……」
「わからないなら、決めればいいじゃないですか」
「え?」
「ないなら作ればいいんですよ。いわゆる記念日なんですから、こはるさんがこの日って決めたら、それがこはるさんの誕生日でいいんじゃないですか」
「あ……」
 こはるさんは大きな瞳を何度も瞬かせてから、呆けたように言いました。
「それで……いいんでしょうか」
「いいんじゃないですか。こはるさんのことなんですから、他の誰が文句を言うこともないと思いますし」
 やがて――ゆるゆると、どこか強張り気味だったこはるさんの表情が解けていくのがわかりました。
「そう……ですよね。はい。わたしの誕生日……いつにしましょう」
「いつでもいいと思いますよ。こはるさんの好きな日で」
「はい。ああ、でも、そう言われると迷ってしまいます……365日もある中から、一日だけを選ぶわけですし……」
 嬉しそうに困るという奇妙な様相を見せ始めたこはるさんは、しばらくの間あれやこれやと考え続けていましたが、どう見てもこれだと決められそうな雰囲気ではありません。
 なので、僕はなるたけ自然な風を装って声をかけました。
「も、もし、その……どうしても決まらないっていうなら、僕に案がないわけじゃないですけど……」
「本当ですか? 千里くん、教えてもらってもよろしいでしょうか!」
「い、いいですけど……で、でも、参考程度に聞いて下さいよ、別にこれにしろって言ってるわけじゃないですからね」
 はいっ、と力強く頷くこはるさんに、僕は再び咳払いをしてから言いました。
「……今日から半年先の日、とか。それなら、半年待つだけで、僕とこはるさんの誕生日がやって来て、交互にお祝いとかできるんじゃないか、とか……」
 自分で説明しながら、どんどんと声が尻すぼみになっていくのがわかります。
 いえその、頭の中で思い付いた時にはものすごい名案みたく思えたんですがいざ口にしてみたらものすごく恥ずかしいことだと気付いたもので。
「――すみませんごめんなさい今のなしです聞かなかったことにして下さ」
 というわけで僕は即行で早口による取り下げを敢行したのですが、
「それにします!」
 それに被せるようにしてこはるさんの採用の声が飛んできました。
「え……ちょ、い、いいんですか、それで」
「はい。千里くんの誕生日からちょうど半年後だなんて、すごく覚えやすいですし。それに……」
 こはるさんは軽く考え込むような仕草をして、ぶつぶつと後を続けました。
「お揃い、とは違いますよね、ええと……何て言えば……あ、そうです! 千里くんと対になっているみたいで、嬉しいので。その日にします!」
「……そ、そうですか」
(まさかこんなにも簡単に採用されるとは……というか採用理由がそれって……)
 じわじわと込み上げる嬉しさに顔が緩みつつ、念のため、もう一度確認しておくことにします。
「で、では半年後がこはるさんの誕生日ということで……本当に、いいんですか?」
「はい!」

 そうして再び歩き始めると、すぐに僕の部屋に到着してしまいました。
「それでは千里くん、今日はお疲れ様でした。ゆっくり休んで下さい」
「あ……はい。こはるさんも、あの、ありがとうございました。……その、それなりに、楽しかったです」
「わたしも、千里くんの誕生日をお祝いすることが出来て、それにわたしにも誕生日が出来て、本当に嬉しかったです。というか、今日は千里くんの誕生日なのに、わたしがプレゼントをもらってしまったみたいで……」
「別に、いいんじゃないですか。……こはるさん」
 さらっと言おうと思ったのに、そこでちょうどこはるさんと目が合ってしまい、僕はうっかり続けるべき言葉を飲み込んでしまいました。
「……千里くん?」
 苦心してどうにか持ち直して、僕ははっきりとその言葉を告げたのです。
「半年後、楽しみにしていて下さい」
「……はい!」

 半年が過ぎる度に、僕とこはるさんはお互いを祝い合う。
 それはこれから先もずっと続いていく。

 ――そう、僕がかけた呪いの通りに。


 満面の笑みを浮かべ、自分の部屋へ戻っていくこはるさんを見送りながら。
 半年後に向けて少しずつ準備を進めようと、心のメモの最優先事項を上書きしたのです。




----------------

FDが出る前に好き勝手やっておこうと思ったことは否定しない。正直すまんかった。

こはるたんの誕生日を決めることを正面から言い出せるのは千里きゅんかなって夢を見たりなどした
駆さんはそゆとこあんま自分から踏み込んではいかないかなって
まーくんは駆さんよか踏み込みやすかろけど、決められないこはるたんに自分と同じにしたらどうだとか言いそうだなってさらに夢を見ている