meganebu

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glasses magic

A5/44P/400円
トキ春小説本(18禁)

 

成人向けの内容を含むため、未成年の方への販売・閲覧は禁止いたします。

 

実月個人誌。
伊達眼鏡をかけたイッチーと春歌たんがなんやかやしてる話。わりとシリアス。
表紙はのはらさんに描いていただきました。

 

本文サンプルは続きから。

 

 

◆「glasses magic」本文サンプル



「……あ、あの。一ノ瀬さん」
 ベッドへ組み敷いた春歌がおどおどと声を上げた。
 それに対し、明確な返事はせずただじっと視線だけを向けて黙っていると、十数秒の後に意図が伝わったようで、
「と、トキヤくん」
 どもりながら言い直される。
(そこはもっと自然に言って欲しいところですが……まあいいでしょう)
「はい。何ですか」
 意識して薄く笑みを浮かべてみせると、彼女は困ったように視線をさまよわせ始めた。
「その……」
 時間をかけて、春歌は再びこちらと目を合わせてから、続けてくる。
「眼鏡はまだしたままなんですか……?」
 普段と比べどうも落ち着かない様子だと思えば、そんなことを気にしていたらしい。
 ベッドルームへ移動する前に、明日の彼女の予定がフリーであること――直近の締切は金曜日で進捗は順調だということ――は確認してある。
 こちらの予定も、集合時間が二時間ほど後ろにずれたため、眠るのが遅くなったとしても問題はない。
(もっと早い締切があったのを思い出して……などと言い出すのではないかと、少し焦ってしまったではないですか)
 取り越し苦労であったことに内心で嘆息しつつ、答える。
「ええ、そのつもりです。先程のことでよくわかりましたからね」
「え?」
 「先程のこと」が何であるか思い当たらなかったのか、春歌は不思議そうな声をあげた。
「私がまだ「眼鏡をかける行為に慣れていない」ということが、です。せっかく借りてきたのですし、今夜はかけたままでいようかと」
「ええっ」
 何故か驚かれてしまった。
 おまけに、その表情や目線や仕草といった彼女の挙動全てから、隠しきれない動揺が滲み出ている。
「……何です? 私がこの眼鏡をかけていると、何か不都合でも?」
「えっ!? い、いえ。そんなことは……」
 逸らされそうになった視線を、素早く頬に手をかけ、強引に戻させる。
 その上で、不必要に顔を近づけて瞳の中まで覗き込むようにしてやると、春歌はあっさりと白旗をあげた。
「あっ、あの、お気を悪くしないでいただけると……」
「ほう? でしたら、君の方こそ何も気にすることはありません。はっきり言っていただけますか」
 より話しやすいようにと気を遣ってみせると、春歌は泣きそうな顔になりながら、ひどく言いにくそうに口を開いた。
「め……眼鏡をかけたトキヤくんが、何というか……その、……っこ、この位置から見上げているせいもあるかもしれないんですがっ」
「……ですが?」
 今度も、ただ先を促すつもりで言葉尻を復唱してやったというのに、春歌は逆に「うう」とか「あの」といった意味のない言葉しか発さなくなってしまった。
 辛抱強く待ってみても、中々続きを言おうとしない。
 前置きとして告げてきた言葉といい、それほどまでに言いにくいことなのだろうか。
 他者に対し必要以上に気を遣いがちな彼女が、こんなにも言い淀むようなこととなると、その内容は限られてくる。
 そう、例えば。
「もしかして、……怖いですか、私が」
 批判や非難といった、他者を否定する傾向にあるもの――いわゆる「悪口」の類など、尤もたる物だ。
「えっ」
 弾かれたように、春歌が俯かせていた顔を上げる。
 けれど、こちらと目が合った途端、ぎくりと擬音が聞こえそうなほどに、その身体を小さく震わせたのがわかった。
「そ、そんなことは……」
「では、何だというんです?」
 口調が詰問めいたものになっていることに気付いたものの、どうしてか、取り繕おうという気にはならなかった。
 責付かれた春歌が、必死に言葉を紡いでいく。
「で、ですからその……め、眼鏡越しの瞳が、何を考えているのかわからない感じといいますか……」
「ほう?」
「まるで、底知れない何かを感じるというか……」
 彼女なりに言葉を選んでの発言なのだろう。けれどその全てが、墓穴を掘っているようにしか聞こえない。
「それはつまり、私のことを怖がっている、ということですよね」
「そ、そんなつもりはないんですがっ、……その……」
 春歌は言葉が続かなくなったのか、あうう、と情けなく悲鳴をあげた。
 ここまで来るとさすがに、こちらが悪いことをしているような気分になってくる。気付かれないよう小さくため息をついた。
(まさか、眼鏡一つでここまで怖がられるとは……)
 しかも春歌の言葉をまとめてみると、「不可解である」とか「不審」といった印象が強く出ているようだ。
(まあ、ドラマの役柄を考えれば、ある意味成功と言っていいのかもしれませんが)
 この眼鏡を借りてきた理由を思い出し、それに紐付く様々な事象が思い返され――知らず、深く息を吐き出した。
(……怖い、ですか)
 もちろん、彼女が本気でそう思っているなどと、そんな馬鹿なことを考えたりはしていない。
 まして彼女が、この程度のことで自分を嫌いになったり幻滅するといった、そんな浅はかな考え方をする女性でないことは、誰よりも理解しているつもりだ。
 何せ彼女は、自分とHAYATOを分けて考えたりなどはしないのだから。
 つと、彼女と――七海春歌という女性と過ごした、早乙女学園での日々を思う。
 パートナーとなった彼女の音楽性に惹かれ始める中、自分は一つの事実を知ることになった。
 彼女がHAYATOの、それもかなり熱烈なファンであるということ。
 HAYATOのことを語る時の彼女は、目一杯に瞳を輝かせ、頬を紅潮させ――それまで自分へ見せたことのない表情を浮かべていた。
 そしてその表情は、別なところで見覚えがあった。
 観客のいるスタジオやステージなどで、最前列を陣取って応援してくれる熱狂的なファンの人々。
 彼女らは皆一様に、春歌と同じような恍惚とした表情をしていた。
 ああ、彼女は本当にHAYATOのファンなのだな、と一瞬で理解して。
 それと同時、一ノ瀬トキヤではこの表情を浮かべさせることはできないのだな、と実感して。
 HAYATOは自分だった。
 紛れもない同一人物で、しかし片方は明らかな偽物。自分自身ではない。
 けれど、春歌をはじめとする多くの人々を笑顔にさせられるのは、その偽物の方なのだ。少なくとも今は――駆け出しアイドルとして売り出し中の今はまだ、HAYATOの域まで達せてはいない。
(そう、あれは……入学して一ヶ月程の、五月でしたか)
 閉じ込められた空き教室で、きらきらした瞳でHAYATOのことを語る彼女を目の当たりにしたあの時。
 気が付けば訊いてしまっていた。
 ――私が怖いですか、と。
 問いに対し、彼女は不思議そうにこちらを見た。その顔に、もうあの輝きが残っているはずもなく。
 当たり前の事実を突きつけられて、愚問だったと納得した。けれどその後も何度か、同じような問いかけをしてしまったような気もする。
 ただ、今はもう、HAYATOから卒業した自分は、トキヤでしかありえない。
 彼女自身も――わたしが好きになったHAYATO様は一ノ瀬さんです、と――私とHAYATOの同一性を認め、どちらかが特別ということも優劣もなく、ただ等しいのだと、そういったニュアンスのことを告げてくれている。
(……そう、何を今更……気にする方がおかしい、という話です。……ですが)
 春歌がHAYATOのファンだと知った時、自分のことを――HAYATOと比べて――怖いかと聞いた自分。
 HAYATOと自分は同じだと言いながら、眼鏡をかけた自分に、恐怖に似た何かを感じているらしい春歌。
(正直、……何とも言えない心地がしますね。……ドラマのこともありますし)
 けれど、いつまでもこうした感情に囚われているわけにもいかない。
 HAYATOから卒業した自分は、他の誰でもない「一ノ瀬トキヤ」でしかないのだから。
(……そうですね。眼鏡のこともそうですが、慣れるほかないのでしょうし……ついでに、こちらも慣れさせてしまいましょうか)
 春歌はHAYATOのファンだということ。
 HAYATOに対しての反応が、自分に対してのそれとは若干違うものであること。
 いくら彼女が自分とHAYATOが同じだと繰り返しても、心のどこかで、素直に受け入れられない部分はある。
 物理的に卒業したからといって、心の中まできれいさっぱりと整理がつけられたかといえば、そんなことはありえはしない。
 それはきっと、HAYATOというアイドルが活躍することがなくなっても、彼女の中でHAYATOが霞んだりすることがないのと同じで――これからもずっと、変わることのない事実なのだろう。
(そして、その事実こそが、私の胸を抉る凶器となるのであれば……)
 その凶器を、無効化してしまえばいい――そう、痛みに慣れてしまえばいいだけだ。



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……という感じに、いつまでもHAYATO絡みで延々ぐるぐるしているイッチーがわりかし自重気味になんかしてる話。
全体的にいちゃいちゃきゃっきゃうふふは断じてしていない残念クオリティです。