meganebu

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「がくでり!ぷらす」表紙

がくでり!ぷらす

A6(文庫サイズ)/116P/600円
緋紅小説本

実月個人誌。(表紙:仲村)
以前発行した学パロ本を文庫サイズにして加筆修正+Twitterでアップした小話2本+書き下ろし1本をまとめた本です。

予約特典CDの「学園サイケデリカ」設定のまあ要するに学パロ本です。
仮に「学園サイケデリカ」設定の乙女ゲーがあったとしたら緋影ルートってこんなんじゃないのんみたいな妄想小話詰め。

緋紅がこれといっていちゃいちゃはしないけどフラグだけは立て続けてる話しかありません。
その上ご都合三昧の捏造設定を多量に含有しているので、本当にどんなものでも大丈夫な人向けです。

本文サンプルは続きから。

 

◆「がくでり!ぷらす」本文サンプル

#「秘密のはじまり」 <相合い傘をする話>

「ところで、君の傘は随分変わっているんだな」
 今もなお鞄を掲げたままの彼女にそう告げると、三秒ほどかかってようやく自身の状態に気がついたらしい。
 彼女は素早く鞄を下ろし、空笑いを浮かべた。
「あ、あはは……実は、置き傘があると思ってたら、家に置いたままだったみたいで……」
 要するに傘を忘れたということらしい。
 彼女はしっかりしているように見えて、どこか抜けているところがある。というか、色々と隙がありすぎるように思う。
 彼らが彼女を放っておけない理由もわからないでもなかった。
 そうだ、肝心の彼らはどうしたのだろうか。
「アキとナツキは?」
「二人とも、もう帰ったと思うけど……」
「君を置いて?」
 あの二人はよく彼女と一緒に帰っていたはずだ。
「私は今日委員会だったから、先に帰っててって言ったの。アキちゃんは傘を持ってきてなかったみたいだし、降り出す前に帰ったほうがいいと思って……ナッちゃんも模試が近いって聞いたから」
(……まったく)
 今日はどうにも運が悪いらしい。
 棚卸が始まる前に返却した方がいいだろうと本を返しに行けば棚卸に巻き込まれ、早く帰ろうと廊下を急いだら鞄を傘代わりにして帰ろうとする級友に遭遇してしまった。
 昇降口へ来るのがあと一分でも遅ければ、彼女に会うこともなかったはずだろうに。
 一度大きくため息をついてから、彼女に尋ねる。
「君の家まで、ここからどのくらいかかるんだ」
「え? えっと……歩いて二十分くらいかな。あ、でも走れば十五分くらいで行けたと思うし」
 この雨ならば、三分もあれば全身ずぶ濡れになれることだろう。たかだか五分短縮されたところで大した意味はないように思えた。
 鞄を小脇に抱え直し、持っていた傘の留め具を外す。
 軽く振って閉じていた傘布を開きやすくしてから、傘を広げた。
「入って。送るよ」
 大判の長傘なので、二人で使ってもどちらかの肩が出てしまうということはないはずだ。もちろん、それなりに身を寄せ合う必要はあるかもしれないが。
「え……で、でもそんな、悪いよ」
 こちらの提案に、彼女は大いに戸惑っているようだった。
 出会って一ヶ月程度の級友に家まで送られるということに、それなりに警戒心を持ってくれたのだろうか。
 それは結構なことだと思う。だが、こちらにも事情というものがある。
「君がこのまま雨の中を帰って、風邪でもひかれたら面倒なことになりそうな気がする」
「面倒なこと?」
 仮に、それが理由で彼女が学校を休んだとする。あいつらは彼女を気遣ってあれこれと画策することだろう。
 その際、同じクラスだからという理由で自分も巻き込まれる可能性が考えられた。
 そんなとばっちりを食うぐらいなら、今彼女を送っていった方が楽でいい。
 ――といったことを、聞き返してきた彼女に説明するのも正直面倒だった。
 なので、より正直な気持ちを伝えてしまうことにする。
「それに、僕が送らなかったせいで風邪をひかれるとか、寝覚めが悪いにも程がある。もちろん、この雨の中をずぶ濡れで帰っても絶対に風邪をひかない自信があるというのなら、僕も止めはしないけど」
 直球の嫌味を放ったつもりなのだが、果たして彼女は理解してくれたかどうか。
「……でもほら、遠回りになるし、緋影くんの帰りも遅くなっちゃうと思うし」
「別に今日は急ぐ用事もないし、そもそも棚卸を手伝わされたおかげで十分遅くなってる」
 それ以上の反論は見つからなかったのか、やがて彼女は申し訳なさそうにこう言った。
「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおう、かな」

 

#「真夏の夜の夢」 <夏祭りに行く話>

「皆ごめんね、待たせちゃって」
 小走りで駆け寄ってきた彼女は、肩で息をしながら謝った。
「言うほど待ってないから平気だよ。アイちゃん、今年の浴衣も可愛いね。よく似合ってる」
「ちょっとナッちゃん一人で全部言わないでよね! ほんっとすっごい可愛い! 写真撮っていい? オレとツーショットで!」
「まあ、いいんじゃねえの。にしても、色合いとかお前にしては珍しいな」
「ほんとだ。でも、すごく似合ってる」
「えへへ、ありがとう。写真は後で、皆で撮ろうね」
 遅れてきた彼女を囲み、四人がそれぞれに褒めちぎっている。
 彼らの言が世辞なのか本気なのか知ったことではないが、流れに迎合する必要はないはずだ。
 盛り上がる輪の外で話が終わるのを待っていると、彼女が弾んだ声を上げた。
「緋影くんも浴衣で来たんだ!」
 輪から飛び出してきた彼女が、自分の正面に立った。
「……ああ」
 浴衣で来たのがそんなに珍しいことなのか、彼女は無遠慮に上から下までを眺め回してくる。
 そして、何でもないことのようにさらりと言った。
「緋影くんって、浴衣似合うね。すごく格好いい」
「な……」
 直球で褒められるとは思わず、ひどく面食らう。
 褒められたことに対しては有難いとは思うが、彼らの前で発言するというのは、さすがに空気を読めとしか言いようがない。
 かといって、何も反応しないというのも失礼だろう。
「……それは、どうも」
 最小限の礼を口にすると、何故か気恥ずかしさがこみ上げてきた。
 彼女から目を逸らし感情の乱れをやり過ごしていると、アキが不満げに言った。
「えーじゃあオレも浴衣着てくれば良かったなー。まあ持ってないけど」
「ってお前、浴衣持ってないのかよ」
「え、まさかタクヤ持ってんの? てことはカズヤも?」
「……あるの?」
「あるだろ、この間買ったのが」
「でも、着ては来なかったんだね。二人とも」
 その場の疑問を集約したかのようなナツキの指摘に、タクヤはばつが悪そうな顔になる。
「今日はここに来る直前まで用事があったんだよ。着替えてる暇がなかったんだ」
「俺は家にいた」
「で、こいつは一人じゃ着られないし、浴衣あったことも忘れてたしな」
「俺もアイとお揃いにしたかった……」
「でも今日の場合、アイちゃんとだけじゃなく、緋影くんともだけどね」
「……なら別にいいかも」
「……」
 繰り返すようだが、カズヤへの突っ込みはするだけ無駄だ。やり場のない何かをため息に替えて、大きく吐き出す。
「ところでよ、そろそろ行こうぜ。さっきからカズヤの腹がうるせえ」
「うん。お腹空いた」
「待たせちゃってごめんね、カズヤくん。じゃあ行こう!」

 

#「二つ目の秘密」 <バレンタイン&ホワイトデー話>

「そーいえばさー、緋影っち知ってる?」
「何を?」
「バレンタインのお返しって、三倍返しってこと」
 聞き慣れない単語を、復唱する形で問い返す。するとアキはにやにやしながらこう答えた。
「言葉通りの意味だよー。もらったものの三倍の値段でお返しをするっていうルール。いや礼儀?」
「三倍……!? 何だその暴利は」
 思わず手に持った袋に目を落とす。
 中身はまだ見れていないが、手作りであるらしい品の値段はどのように換算するべきなのか。原材料費だけではなく、作成にかかった手間や時間なども考慮すべきだろうか。
「もうアキちゃん、適当なこと言わないの!」
 考え込んでいると、彼女が注意するように声をあげる。
 ということは、アキの言うことは出鱈目だったのだろうか。
「えー、ホントのことじゃん。オレは親切心で教えてあげたのになー」
 こういった場合、基本的に彼女の言が正しい場合が多い。
 というかアキの言葉の七割くらいは人をからかう内容である。
「緋影くん、三倍なんてしなくていいんだからね」
「ウソじゃないしー」
「……まあ、そういうことが言われているのは本当だね」
 そこでナツキが会話に入って来た。
 ナツキはアキと違い、言動の大半はまともだ。そこに彼女が関わらなければ、の話だが。
「本当なのか? 三倍……」
 微妙に信憑性を増してきた数字に、食品の原価計算方法を学ぶべきかと考えを改めていると、彼女が慌てたように付け加えてきた。
「あのね緋影くん。確かに「三倍返し」って言葉はあるけど、そういうのをするのは……その、付き合ってる同士とか、そういう人たちの場合だと思うな」
「えーそんなことないって。三倍で返すってことは、それだけ気持ちを込めたってことでさ。愛の強さをわかりやすく表現してるだけなんだし、付き合ってるかどーかは関係ないと思うけどなー」
「だとしたら、付き合ってもいないのに三倍返しされるのは、気持ちとして重すぎるかもね」
 ナツキの言葉に、アキが顔をしかめている。
「……ナッちゃんはどっちの味方なわけ?」
「もちろんアイちゃんだけど?」
「ですよねー」
 棒読みでそう言って、アキが疲れたように肩を落とした。
「……だからまだ、僕は送らないかな」
「ま、それもそっか。今んとこまだ抜け駆け禁止、だしね」
 二人は彼女が聞き取れないような小さな声で言い合った。その上で、アキはこちらに視線を送ってくる。
 緋影っちもわかってるよね、とでも言いたいのだろう。
 嘆息を返事に替えて、アキの視線を受け流す。
 一人取り残された形になった彼女は、突然の沈黙を取りなすように明るい声で言った。
「えっと……ともかく、そういうのは気にしなくていいからね? というか、お返し自体気にしなくていいから。皆にはいつもお世話になってるから、そのお礼みたいな感じだし」
「はー……お礼ね……。先は遠いなー」
「そうだね。気長にやるしかないんじゃないかな」
 今度は彼女にも聞こえるように、しかし彼女には理解の及ばない会話をするアキとナツキ。
 彼女が困ったようにこちらを見る前に、素早く目を逸らしておく。
 この若干微妙な空気は、双子との待ち合わせ場所に着くまで続いた。

 

#「imagining things」 <家まで送る話(書き下ろし)>

 下駄箱に背を預け、淡々とめくり続けた自作の単語帳は既に二巡目へと入っていた。
 この場所は昇降口へと続く廊下を一望することが出来る。そこを陣取り、下校していく生徒をもう何人見送っただろうか。
「緋影くん?」
 ようやく姿を見せた待ち人は、こちらの姿を認めて驚いたような声をあげた。
 続けて、どうしたの、と不思議そうに尋ねてくる。
「君を待っていた」
「私を?」
 目を丸くする彼女――クラスメイトの湊戸さんへ、単刀直入に告げてやる。
「君を送っていくよう、あいつらから頼まれた」
 単語帳を鞄に入れ、返事を待たずに自分の下駄箱へと向かった。慌てたように彼女が追ってくる。
「待って緋影くん。あいつらって、アキちゃんたちだよね?」
「ああ。今日は全員用があって来られないと聞いた」
「そうなんだ……って、いいよ緋影くん。待っててもらったのに悪いけど、私一人でも大丈夫だから」
「件の不審者が捕まったとは聞いていないけど」
 じろりと彼女を見据えれば、それはそうだけど、と口篭られる。
 ――この辺りに不審者が出没する、と噂になり始めたのは先々週あたりからだ。
 最初は部活動で帰りの遅い生徒たちの間でまことしやかに囁かれる程度だったが、実際の目撃談が一つ二つと増え、とうとう地元警察がパトロール回数を増加するまでになった。
 そして先週、朝のホームルームで担任からも注意喚起が行われた。
 曰く、女子は帰りが遅くなる場合はなるべく一人で帰らないこと、遠回りでも良いから明るい道を選ぶこと、等々。
この事態を受け、彼女の幼馴染みたちは毎日彼女を送ることにしたそうだ。
 あくまでも防犯目的と称し、基本的には同じ学校のアキとナツキが、時間が合えば学校の違う双子も駆けつけて一緒に帰っているのだとか。実にご苦労なことだと思う。
 ……と、他人事のように言わせてもらっているのは、実際に他人事だったからである。
 湊戸さん絡みの面倒事には常々巻き込まれる傾向にあるのだが、今回ばかりは何の声もかからなかったのだ。
 まあ、自分と彼女の家は方向が真逆であるし、あいつらとしては体のいい「一緒に帰る理由」が出来たようなものだ。
 そこに自分を加える必要はないということだろう。
 おかげで、しばらくは平和な日々が続きそうだと安堵に浸っていた矢先、アキからメールが届いたのである。
『今日は皆予定が入っちゃってアイちゃんを送れないから、緋影っち頼んだ! あ、変な気は起こさないよーに☆』
(誰が起こすか)
 だいたい、こちらにも予定があったらどうするつもりだったのか。まあ、幸いというか災いしてというべきか、これといった予定は何もなかったのだが。
 おまけに彼女は放課後に委員会があり、さらに日直まで兼ねていた。これで帰りが遅くならないわけがない。
 要するに、わかったと了承の返信を打つ以外の選択肢がなかった。それだけの話である。
「そもそも、皆心配しすぎだと思うんだよね。一応防犯ブザーだって持ってるのに」
 ほら、と彼女が鞄に付けた防犯用品を見せてくる。
 対策としては悪くはないが、非常時に咄嗟に押せなければ大した意味はない。
 正直な話、彼女にそんな反射神経が備わっているとも、肝が据わっているとも思えなかった。
「君がなんと言おうと、僕はあいつらから頼まれて、それを了承した。請け負った以上、君を家まで送り届ける義務がある」
「私が大丈夫って言ってるのに?」
「なら、その発言の根拠は? 僕が納得いくように説明してもらえると助かるね」
「根拠って……この防犯ブザーじゃダメなの?」
「ダメに決まっているだろう」
 話にならない。それ以外に言葉が見つからなかった。
 まず、防犯ブザー程度でどうにかなると思っている認識の甘さをどうにかしてもらいたい。
 というか、あいつらが毎日必死に送ろうとするのも仕方のないことのように思えてきた。
「あのね、緋影くん。私今日夕食当番だから、この後買い物して帰らないといけなくて……さすがにそこまで付き合ってもらうわけにいかないよ」
 おまけにとんでもなく重要な事実をなんでもないことのように付け足してくるのだから、たまったものではない。
 あいつらの気苦労は如何ばかりか――もはや気の毒としか言いようがなくなってきた。
「……君は馬鹿なのか?」

 

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表紙はイメージ映像なので本編とは一部関係ない場合があります。