meganebu

Gallery

earnest desire

黒蝶のサイケデリカ、オトパ2015朗読劇のその後の何か。

 

「ええっと……」
 私は曖昧な笑みを浮かべて、どうしたものかと思案する。
 目の前には鴉翅くん。その後ろの左右に鉤翅さんと紋白さん。
 今日は探索に出た後、何となく疲労感を覚えて一人で部屋で休んでいた。しばらく横になってうとうとしていると、部屋の外から声をかけられた。
 身体を起こしてみると、じっとりと全身を覆っていただるさが抜けて、随分楽になっているのがわかった。
 寝転んでいたせいで乱れた髪や服を素早く直してドアを開けると、先述した三人が立っていた。
 休んでたところにごめん、でもどうしても聞きたいことがあって。鴉翅くんからは妙な押しの強さが感じられて、私は断る理由を見つけられないまま、三人を部屋に招き入れた。
 そうして聞かれたのは、どの夏祭りデート案が良いか、という唐突すぎる質問だった。
 訳も分からず面食らっている私に、「夏祭りといえば」というお題で挙げられそうな、定番の行動が羅列されていく。
 正直に言うならどれも魅力的だと思うし、むしろ全部やればいいんじゃないだろうか。それも皆でやったらすごく楽しいと思う。
 そう告げると、それじゃ意味がないじゃん、と即座にダメ出しされた。
「でも、夏祭りに行って屋台で物を食べるだけとか、金魚すくいするだけとか、あまりやらなくない? だいたい全部やる気がするけど……」
「それは……そうかもね」
 鉤翅さんが苦笑気味に同意してくれる。
「俺は食べるだけでもいい……」
「だったらオレは紅百合ちゃんと一緒にいられるだけでいーんですけどー! もう夏祭りとか関係なく一年中ずーっと一緒にいたいなー」
 さっきから妙にテンションの高い鴉翅くんが詰め寄ってきて、私は一歩半ほど後ろに下がった。それ以上近付いてこなかったのは、鉤翅さんが鴉翅くんの肩を押さえて止めてくれたおかげだ。
 そのまま鴉翅くんを引き戻した鉤翅さんは、柔らかな笑みを浮かべてこう言った。
「それじゃあ、紅百合さんが夏祭りに行くとしたら、誰と行きたい?」
「え?」
「うーわ、直接それ聞いちゃう?」
「だって、紅百合さんはどの案も採用したいってことのようだしね」
「ま、それもそっか。うん。というわけで紅百合ちゃん、夏祭りデートのお相手、選ぶんだったら誰?」
「俺、紅百合と夏祭り行きたい……ダメ?」
「え、えっと……」
 いつの間にか三人に囲まれるようにして問い詰められる。
(誰って言われても……)
 お祭りなんて、皆でわいわい楽しむのが一番楽しい気がする。
「そうだ、皆で行くっていうのは?」
 心からの希望を告げると、先ほどと同じに不可扱いされてしまう。
 誰か個人の名前を挙げない限り、この話は終わってくれないみたいだった。
(そんなこと言われても……う、うーん……夏祭りに、一緒に行ってみたい人……)
 渋々ながら想像する。
 お祭りへ一緒に行って、楽しく過ごせそうな相手。
 まだ完全に戻りきっていない記憶の中で、認識している人の顔を並べていく。
 その人たち一人一人と、「夏祭りを一緒に回る」という鴉翅くん曰くの「妄想」を続けた結果――
「……あっ」
 この人となら楽しい気がする。
 僅かな確信を得て、小さく声をあげた私の顔を、鴉翅くんが覗き込んでくる。
「紅百合ちゃん、誰か決まった?」
 軽く頷いてから、私は思い当たった人物の名前を口にした。
「ウサギちゃん!」
「……はあ?」
「あー……」
「えー……」
 三者三様の呆れたような反応は無視して、私はそう思った理由をまくしたてる。
「だって、ウサギちゃん浴衣とか着たらすっごい可愛いと思うし。二人で一緒に浴衣着て、色々回ってみたいかも」
 想像の中で、浴衣を着たウサギちゃんに、浴衣を着てはしゃぐ妹の姿が重なる。
 あれは夏祭りじゃなくて縁日だったかもしれない。少ないお小遣いを手に、二人であちこちを見て回った――ような、気がする。
 脳裏に浮かぶ朧気な記憶に懐かしさを感じていると、
「却下だ」
 端的で冷静な言葉に一刀両断されてしまった。
 私は驚いて、声の主の名前を呼ぶ。
「緋影くん?」
 さっきまでいなかったはずのその人は、いつの間にか開け放しになっていたドアから入って来ていたらしい。
「あっれー緋影っち、結局来たんだ?」
「……別に、女性の部屋のドアが開けっ放しになっていたから、不用心と思って様子を見に来ただけだ」
「不用心って……ひっどいなー、オレたちがここにいること知っててそういうこと言うー?」
「そもそも、女性の部屋へ男が何人も詰めかけている時点で問題だろう」
「……まあ、それは僕たちも軽率だったかもね」
「それと紅百合、君も君だ。軽々しく男を部屋へ招き入れるものじゃない」
「……でもヒカゲ、ベニユリの部屋、勝手に入ってきてた……それはいいの?」
「ぐっ、そ、それは……」
「なにそれ、緋影っちの方がよっぽど失礼じゃん。オレはちゃんとノックして声をかけてドアを開けてもらってから入ったしー」
「――あ、あの、皆落ち着いて。私は気にしてないし、えっと……これから気をつけるから!」
 妙な空気になった場を取りなすべくそう告げる。一応皆が口を閉ざしてくれたのを確認して、私はほっと胸を撫で下ろした。
(もう……人の部屋でケンカなんて始められても困るよ)
 ふと、まだ不機嫌そうな表情の緋影くんが目に留まった。
(そういえば、ウサギちゃんと夏祭りに行くのは却下って言われちゃったけど……何でなのかな)
 以前、ウサギちゃんにリンゴを食べてもらった時、見知らぬ人間は警戒しろと叱られたことを思い出す。
 彼女のことは信用できないから、一緒に行動するのは許可できない、ということだろうか。
(でも、これはただの「妄想」なんだし、そこまで気にすることじゃないような)
 何だか気になってしまい、私は緋影くんに尋ねてみることにした。
「あの、緋影くん」
「……何だ」
「さっきの話なんだけど。どうしてウサギちゃんと一緒は「却下」なのか、聞いてもいい?」
「あ、それオレも気になるなー。まさか緋影っち、自分と一緒じゃなきゃダメとか言わないよね?」
 君と一緒にしないでもらえるか、と冷たい視線を鴉翅くんに送ってから、緋影くんは私へ向き直った。
「理由は一つだ。女子二人で祭を歩き回るなんて危険すぎる。何かあったらどうするんだ」
「危険って……だってお祭りだよ?」
「危険だろう。何より君は抜けているし騙されやすい。おまけに注意力も足らない。屋台の店主やスリにとっていいカモだ。その上いらないことに首を突っ込みたがる。そんな君とあんな小さな子供を一緒に歩かせて、安全であるはずがない」
 あまりの言われように、私はすぐに反論の言葉が出てこない。
 それでも何か言い返そうと口を開きかけて、周りがうんうんと頷いているのに気付いた。
「あー……確かにそうかも」
「一理あるね」
「……うん」
 しかも紋白さんまで同意しているのが地味にショックだ。
「ちょっ……皆、ひどいよ。私、そんな抜けてなんかない」
 私の反論に、皆は言葉を返すことなく、ただ同情的な視線を送ってくる。
 そもそもこれは妄想という仮定の話のはずだ。それなのにどうしてここまでダメ出しをされないといけないんだろう。
「……まあ、どうしても君がウサギと一緒に行きたいというのであれば」
 理不尽さを感じる私へ、緋影くんがさらに後を続けてくる。
 ただその瞳には、同情的であったり哀れんだりするような色は見受けられなかった。
「少し離れた位置で、僕が君たちの後ろを歩けばいい。それなら、何かあってもすぐに対処できるはずだ」
(……えっと……?)
 言われた意味がよくわからなかった。
 緋影くんが、私とウサギちゃんの後ろを歩く、ということは。
(……要するに、三人でお祭りを回るってこと、だよね。というか、それなら普通に三人並んで歩けばいいような……)
「うっわー」
 鴉翅さんが声をあげた。ドン引きした、という意思をその声色に乗せて。
「ない。ないって。マジないわー緋影っち。だいたい、それってただのストーカーだし」
「す、すと……? 何だそれは」
「すとーかー? ってなに?」
 疑問符を浮かべる緋影くんと紋白さん。
 二人から視線を向けられた鴉翅くんは説明する気がないのか、マジないって、と一歩後ろに下がっている。
 続いて鉤翅さんに矛先が向いたけれど、僕にもよくわからないかな、とお茶を濁している。
 となると、残るは私しかいない。
「ベニユリ。すとーかーって、なに?」
「え、ええっと……か、鴉翅くん!」
 言い出した張本人を非難するように呼ぶ。オレ間違ったこと言ってないし、と鴉翅くんは口を尖らせつつ、紋白さんへと向き直った。
「あのね紋白ちゃん。ストーカーっていうのはね、相手を一方的につけ回す変態のことだよ」
「なっ……!?」
「ああ、そういう意味なんだ。へえ……」
「ヘンタイ……ヒカゲは、すとーかー……ヒカゲ、ヘンタイ」
「っ……誰が変態だ!」


 そうして、怒った緋影くんが部屋を出て行き、なんか白けちゃったと鴉翅くんたちもそれに続いて、夏祭りデートの話はお開きになった。
 疲れがぶり返してきた気がして、私はベッドに横になった。
(夏祭り、かあ……)
 つらつらと想像する。
 皆で浴衣を着て、屋台を巡って、花火を見て、わいわいと楽しく過ごす。
(……うん、やっぱり皆一緒の方が楽しい)
 そのためにも、早くこの館を出なければならない。誰一人欠けることなく、皆で一緒に。


 現実と夢の狭間――穏やかなまどろみの中、私は叶うことのない願いを描き続けていた。




----------------

朗読劇えがったですほんとえがったですビタいちデレず甘い台詞の一つも吐くことなく言わされそうになったらなったで即行拒否るという例えオトパだろうと安易な萌えキャラに堕ちたりしない緋影っちさんでマジえがったですほんとありがとうありがとうございますあと中の人が諸々振り切っててマジ輝いてた鴉翅さんとか綿あめ言うだけで客席からキャー言われる可愛い生き物すぎる紋白さんとかあそこで緋影っちさんにツッコミ入れるのが鉤翅さんっていうプレイ済みの人間を転げさせるあの流れとかほんともう最高にも程があったマジありがとうございました!!!!!!!!!(土下座)


という勢いのままついカッとなってやった。反省はしていない。