meganebu

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Directionality of interest

学園サイケデリカで付き合ってる設定の緋紅でキスの日ネタとかいうものすごく色々をぶっ飛ばした何か。よって諸々ネタバレなのでフルコンした人向け。
某キャラの名前はデリカさんのキャラメール表記に倣いました。

何というかそのついカッとなって堂々遅刻しながらやらかした正直すまんかった。

 

 聞き慣れたメールの着信音に、私は考え込んでいた問題集から顔を上げた。
 傍らに置いていた鞄からスマフォを取り出すと、新着メールが一通、という通知が表示されている。アキちゃんかハルカあたりかな、と思いながらメールアプリを立ち上げた。
「あれ? ウサギちゃんからだ」
 差出人の名前を見た私は、思わずそう呟いた。
 向かいの席で私と同じく問題集を解いていた彼が顔を上げた気配がしたけれど、まずは本文に目を通すことにする。

『件名:知っていますか?
 本文:
 こんにちは、アイさん。お友達から聞いたのですが、今日は「キスの日」なのだそうです。
 とても素敵な記念日だなと思って、つい誰かに話したくなってしまって、メールしてしまいました。突然ですみません。
 それでは、今日がアイさんにとっても素敵な日になりますように。
 
 ウサギ』

(……へえ、そうなんだ)
 一読した私は素直に感心して、顔を上げる。その途端に彼と目が合ってしまった。
 彼の視線は、妹がどうかしたのか、と告げてきている。彼女からメールが来ていると告げてしまった手前、答えないわけにはいかない。
「あ……えっと、特に用事ってわけじゃなくて、その……世間話、かな」
 さすがに「キスの日云々」などと説明はできなくて、私は歯切れ悪くそう返した。すると、彼は一度何かを考えるように僅かに目を逸らして、やがてまた私を見て言った。
「もしかして、今日が「キスの日」だという話か?」
「う、うん」
 濁していた単語そのものが彼の口から出てくるとは思わなくて、ひどく驚きながら――けれどすぐ解答に辿り着く。
「じゃあ、緋影くんのところにも?」
「ああ。帰る前、今日は委員会で帰りが遅くなるとメールがあってね」
 用件の後に、そういえば知っていますか、と私へのメールにあったような内容が追記されていたそうだ。
(「キス」とか、そんなメール送られたら緋影くん卒倒しそうだけど……そんなことないんだ)
 緋影くんは若者にしては考え方が厳格というか古風というか……とにかく、礼節にはものすごく厳しいところがある。私も幾度となく身なりをちゃんとしろとか身繕いする場面を男の前で見せるなとか、さんざん注意されてきていた。
 正直それはどうかなあと思う時もあるけれど、私を心配しての苦言なんだろうし、なるべく気をつけるようにはしているつもりだ。
(……まあ、それにウサギちゃんも、思わずお兄さんに教えたくなっちゃうくらい、感動したってことだよね)
 ふと、丁寧な文面を思い出す。
 彼女は直接話すときもメールと同じように丁寧な口調なのだけれど、緋影くんと話す時はちょっとだけくだけた調子になることを、私は知っている。
「それにしても、どうして今日が「キスの日」なのかな。緋影くんのメールには理由とか書いてあった?」
「いや、特には」
「そっか……ちょっと調べてみようかな」
 興味をかられて、私はスマフォを操作して「キスの日」で検索をかけてみた。
(あ、あった。えっと、なになに……)
「日本で初めてキスシーンのある映画が上映された日、だから、今日が「キスの日」なんだって」
「へえ、そう」
 気のない相槌に目をやると、緋影くんは既に問題集と向き合っていた。
(……だよね。こういうの、緋影くんは興味なさそうだし)
 君は一体何のためにここに来たのか、忘れたわけじゃないだろうね――黙々と問題を解いている彼を見ていると、そんな幻聴が聞こえてくる気さえする。
 実は他にも気になることが書いてあったのだけれど、これ以上話を続けるのは止めておくことにした。
(怒られる前にちゃんと勉強しないとね。……と、その前に)
 せっかくもらったメールに返信しておこうと、スマフォに指を走らせる。
 教えてくれてありがとう、私も素敵だと思うな、という手短なお礼に、先ほど検索した内容を書き添えて送信。
 送信完了の表示を確認してから、私はスマフォを鞄の中にしまいこんで、再び問題集に目を落とした。
 しばらくノートに書き込みをする音と、ページをめくる音だけが続く。
「……そろそろ休憩にしようか」
 そう言って、緋影くんが席を立った。多分、お茶を淹れてくれるのだろう。
 いつもは妹さんが頃合いを見て持って来てくれるけれど、今日はまだ帰ってきていない。だから今この家には、私と緋影くんの二人しかいなかった。
「あ、私も手伝――」
「いい。客である君に給仕をさせるわけにはいかないし、第一まだ解き終わってないだろう」
 ふと見れば、緋影くんの問題集はノートと共にきっちりと閉じられていた。やるべきところまで解き終わったからこそ、休憩を提案してくれたのだろう。
 僕が戻るまでに解いておくように、と無理難題を言い残して、緋影くんは部屋を出て行った。
「うう……苦手なんだよね、このへん」
 トントン、とシャーペンで問題集をつつく。
 もちろんそんなことをしていても問5が解けるわけはないので、もう一度数式を頭の中でこねくり回す。
 しばらくして緋影くんが戻って来た時、当然ながら問5の解は導き出せていなかった。
 そんな私の惨状を理解した緋影くんはあからさまにため息をついてから、一度休憩してから考え直してみて、それでもわからなければ教えると言ってくれた。
 手厳しいけど優しい。こういうところをもっと皆に知ってもらえれば、緋影くんも周りと打ち解けられるんじゃないかと思うんだけど。
 前にそう言ったら、他人と馴れ合うのは好きじゃない、と一蹴されてしまった。
(でも今は、……私と付き合ってる、わけで……)
 淹れてもらったお茶に口をつけながら、盗み見るように緋影くんを見つめた。
「……何?」
「えっ、あ、ううん! お茶美味しいなーって」
「僕はあの子ほど紅茶には詳しくないから、緑茶にさせてもらったけど。以前君は、紅茶の方が好みだと言っていたね。あの子に習っておくべきだったな」
「ありがとう、緋影くん。でも私、緑茶も好きだよ? これすごく美味しい。うちで飲む緑茶とはなんか違う味する」
「そうか? まあ、気に入ってくれたならいいけど」
 そこで会話が途切れる。
 最初のうちは、こういった沈黙を気まずいなと思っていたけれど、今はそう思わない。
 緋影くんは必要以上に喋らないだけ。私と二人で居ることに不快感を示しているわけではないのだから。
 そうして熱いお茶を少しずつ飲んでいって、残りが半分くらいになった頃、緋影くんがぽつりと言った。
「……そういえば、前にもアキが言っていた気がするな」
「え?」
「先ほどの……その、「キスの日」だとか。それ以外にも今日はナントカの日だとか、事あるごとに言っていたのを思い出したんだ。ああいった記念日だとかに、アキはやたらと詳しくないか?」
「そういえば……そうかも。アキちゃん、そういうの好きみたいだし」
「一体何が楽しいんだ。だいたい、記念日といっても販促目的のこじつけがほとんどだろう」
「それはそうかもしれないけど……」
 言葉を続けるかどうか、私は少しだけ迷った。もしかしたら緋影くんの気分を損ねてしまうかな、と思ったからだ。
(……でも、ただの感想だし。……いいよね)
「でも私は……今日の「キスの日」とかはちょっと素敵だなって思うな」
「そうか?」
「うん。由来も、初めてキスシーンのある映画が上映された日、だっけ。何ていうかな、こう……女の子としては、ちょっと憧れるっていうか、いいかなーって」
「……そういうものなのか?」
「そういうものだよ。それにね」
 どこか怪訝そうな緋影くんに、私はすかさず奥の手を使うことにした。
「ウサギちゃんも、素敵だなって思ったから私にメールしてくれたみたいだし」
「そうか。……僕はこういったものには興味がないけど、……まあ、勉強になった」
 妹さんの名前を出した途端、緋影くんの態度は目に見えて軟化した。奥の手、大成功。
 この兄妹は本当に仲が良くて、お互いのことが大好きなのだ。少し羨ましいくらいに。
(相変わらずわかりやすいなあ……)
 そして、その微笑ましさのあまり、私は笑ってしまっていたらしい。
「……何を笑っているんだ」
「え? 別に、笑ってなんかないけど」
「今のは絶対に笑っていただろう。……まったく。さあ、休憩は終わりだ。早く続きを解いて」
「ええ、もう!?」
「早く。時間は有限だ」
 私はお茶の残りを飲み干すと、急かされるまま問題に取り組んだ。
「……」
 それから五分後。
 緋影くんはギブアップした私の隣に座り直してくれた。
「この問題のどこがわからないんだ」
「えっと……」
 問題から読み解いた数字を、数式にあてはめていく。
「これが、こうなるよね。……で、こうなって……ここからどうしたらいいかがわからなくて」
「……君は、典型的な応用問題が解けないタイプだな」
「うっ」
「まあいい。これは、まず――」
 さらさらと緋影くんが解説と共にペンを走らせていく。あっという間に解が導き出された。
「なるほど、そうなるんだ……ありがとう、緋影くん。なんとなくわかった気がする」
「なんとなくじゃ意味がないだろう。まったく……」
 呆れたとばかりにぼやかれて、私は慌てて言った。
「ち、ちゃんと家で復習するから」
「……ならいいけど。似たような問題で躓かないよう、しっかりやるように。教えた意味がないようじゃ困るからね」
「は、はい……」
(……やっぱり手厳しいなあ)
 でも私のためを思って言ってくれてるんだろうし、これも緋影くんの優しさには違いない。
 そして何より、これはすごく有難いことなのだろうと思う。
(丁度いい機会だし……ちゃんとお礼を言っておいてもいいよね)
 よし、と決意した私は、改めて緋影くんに向き直る。
「本当にありがとう、緋影くん」
 すると、緋影くんは不思議そうに眉をひそめた。
「教えたことへのお礼なら、さっき聞いた気がするけど」
「そうなんだけど、えっと……それとは別に、緋影くんにはいつも色々とお世話になってるなって思って」
「……それを言うなら、僕も君に世話になっているように思うけどね」
「え、そう? そんなことないと思うけど……」
 確かに、緋影くんが転校してきたばかりの頃は、校内を案内したりだとか、不慣れな彼の手助けになればとお節介を焼いた覚えはあるけれど。
(最近は明らかに私の方がお世話になっているっていうか、迷惑をかけているような……)
 少し思い返すだけでも、それに該当しそうな諸々がいくつも浮かんだ。
 緋影くんは、まったく、とぼやきながらも最後まで付き合ってくれて、そしてお説教が始まるのだ。
(……うん、なんか事あるごとに怒られたり窘められてばかりな気が……)
 はあ、という大きな嘆息に我に返ると、緋影くんがものすごく見覚えのある表情を浮かべていた。
(う……これは)
 お説教を始めるときの顔だ――そう思った瞬間にばっちりと目が合う。
「あ……え、えっと、あはは」
 愛想笑いで誤魔化そうとしたけれど、もちろん緋影くんの目は笑っていない。
 と、何故か緋影くんの手が伸びてきた。
 そのとき私の頭に浮かんだのは、軽く頭をはたかれるとか、デコピンされるとか、鼻を摘まれるとか――そういった、お説教の前に軽いお仕置きをされるんじゃ、ということで。
 だから咄嗟に、私は首をすくめるようにして、ぎゅっと両目を瞑った。
「……」
 ほんの、一秒か二秒程度。
 想定していたよりもやや遅れて、顔に何かが近づく気配があった。
(っ……)
 最終的に、彼の手は私を叩くどころか触れることもなかった。
 その代わりに、
(――っ?)
 微かな吐息と共に、唇へ柔らかなものが押し当てられた。
 驚いて目を開けた時には、もうそれは離れてしまっていたけれど、目を閉じる前よりもずっと近い位置に彼の顔があった。その頬は少し赤いような気がする。
 これはちょっとレアかもしれない――なんて、暢気なことを思っている場合じゃなくて。
「……い、今の、……な、なんで」
 混乱のままに、私は疑問を口にする。
 そう、さっきの会話の流れからしてどうしてこうなったのかがまるでわからない。何より、キスなんてそんな、まだ数えるほどしかしたことがないのに。
(っそ、それに緋影くんてこういうこと滅多にしないっていうか……こういうのって、何をふしだらな、とか思ってそうなのに)
 緋影くんは少しだけむっとした風に表情を強張らせて、そしてばつが悪そうに目を逸らした。
 続いて、ぼそぼそと早口で何かを呟くのが聞こえる。
「その、……今日は、「キスの日」、だというから」
「……え?」
 思わず聞き返すと、怒ったように緋影くんが振り向いて、一気にまくしたて始めた。
「だから、君がこの状況で軽率にそういう真似をするから、――っいや違う、そうでなくて……っとにかく、君は隙がありすぎる!」
「え、ええー……」
 そうして、女性として自らの置かれた状況を自覚しろとかなんとか、いつものお説教が始まってしまった。
 とはいえこれは緋影くんの方からしてきたわけで、どうにも理不尽じゃないだろうか。
 そう思った私は何度か反論を試みたものの、火に油を注ぐようなものだった。
(でもこれって、……もしかして、照れてる……のかな)
 だとしたら――ちょっと可愛い、かもしれない。なんて、絶対に口には出せないけど。
 ともあれ、このままお説教が長引いても困るので、これからは気をつけます、と私は殊勝に頭を下げた。それで、緋影くんも少し冷静になってくれたみたいだった。
「……まあ、僕も軽率だったことは認める。きついことを言ってすまなかった」
「う、ううん。私のことを思って言ってくれた、っていうのはわかってるし」
 そこで、何か扉が開くような音に続いて、ただいまーと可愛らしい声が聞こえてきた。ウサギちゃんが帰ってきたらしい。
 ふと時計を見ると17時を回っていた。夕飯を作らないといけないし、この辺で私はお暇させてもらうことにした。
 一人で帰れる、と言ったけれど、緋影くんは家まで送るときかなかった。
 君を一人で帰して何かあろうものならあいつらに何を言われるかわかったものじゃない、といつもの口癖を盾にして。
「ねえ、緋影くん」
 帰り道、ふと言いそびれていたことを思い出して、私は言った。
「今日って、「恋文の日」でもあるんだって」
「恋文?」
「うん。ほら、5月23日で、『こ』い『ぶ』『み』、って」
「ああ、なるほどね。まあ、それもこじつけには変わりないけど、「キスの日」よりは情緒がある気がするな」
「あはは、そうかも」
 そこで、何となく会話が途切れた。
(……)
 私はちらり、と緋影くんを窺う。見る限りいつもの緋影くんだった。さっきみたいな、お説教モードじゃない。
 そう判断して、私は口を開いた。
「……緋影くん」
「ん?」
「えと、その……さ、さっきの、キスのことなんだけど」
 恥ずかしくて「キス」のところだけもごもごと発音してしまったけれど、緋影くんはちゃんと聞き取ってくれたようだった。
「っな……君は、何もこんな道の往来でそんな話を蒸し返さなくてもいいだろう」
「う、うん、そうなんだけど、その……ちょっと気になったっていうか……」
「……何だ」
 幾分声を潜める緋影くんに倣って、私も気持ち小声で続けた。
「緋影くん、「キスの日」の話をしてたとき、「こういったものには興味がない」って言ったよね。だから……その、ちょっと驚いたなって……」
 だって彼は、あれだけお説教をしておきながら、最初に口走ったのだ。「キスの日」だというから、と。
 興味がないと言ったのに、それに託けるような形で行為に及ぶというのは――何だか彼らしくないなと、そう思って。
「……ああ、そういうことか。あれは、ああいった記念日全般には興味がない、と言ったつもりだった」
 そうだったんだ、と相槌を打ちかけて、あれ、と何かが引っかかる。
(つまり、「キスの日」だけじゃなくて、記念日そのものに興味がないってことだよね。それじゃあ、どうして……)
「だから、……君との、そういった行為に興味がないとは言っていない」
 軽くそっぽを向いて、緋影くんが呟いた。
 黒髪から僅かに覗くその耳が、明らかに赤くなっているのがわかる。
(……えっと、それって)
 「キスの日」に託けたわけではなくて、単純に「キス」には興味があった、ということ――だろうか。
「……そ、そう、なんだ」
 私もそう答えるのが精一杯で。
 それから家に帰り着くまでの間、私たちはずっと微妙な空気のまま、無言で歩き続けた。




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緋影っちさんの言い分としてはキスの日とか話してたからつい唇に目が行って気が付いたらやらかしてしまったけれどもそもそも男の部屋で二人きりとかいう状況下でそんな真似をする方がまず間違いだろうガミガミみたいな。


いやほんとあの学デリで在学中につきあい始めるとか緋影っちさん的にまずないだろほんとないだろってわかってはいたけれどもそれがどうにかまかり通るような設定考え抜く時間なかったんで諸々放り投げた結果がごらんの有様だよ!!!!!

他にもあれこれ豪快に捏造三昧でマジすまんかった。今は猛省している。