meganebu

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どうしようもない僕に天使が堕ちてきた

A5/48P/400円
桜月小説本

実月個人誌。(表紙:仲村)
彼氏前だったり彼氏だったり旦那だったりバッドエンドだったりする桜月小話を4本詰めた小説本です。
After Winterネタを含みます。ネタバレを気にされる方はご注意ください。

本文サンプルは続きから。(※サンプル内にはAfter Winterのネタバレはありません)

 

◆「どうしようもない僕に天使が堕ちてきた」本文サンプル



#「vague distance」

「ねえマドンナちゃん」
「はい、何ですか?」
 生徒会室のソファに座って何やらカメラを調節していた白銀先輩が、にっと笑って言った。
「もうそろそろいい頃合だと思うんだよね」
「はあ……何がですか?」
 脈絡のない会話運びはいつものことなので、社交辞令的に聞き返してみる。
「俺とマドンナちゃんの遠い遠い距離が、もうワンステップほど縮んでもいい頃!」
「……そんな遠かったんですか?」
 どちらかというと、白銀先輩の方から遠慮なく近くまで来ていたような。それが迷惑かどうかは別として。
「遠いよ! 遠すぎる! なんかもうヤッホーって叫んだらぃやっほーう! ほーう……ほーう……ほー……とかこだましちゃうくらい遠い!」
 声だけでなく体全体でセルフこだまを表現する白銀先輩。
 元気だなあ、と思いながら、私は書類のバインダーを棚へ戻す作業を続ける。
「私、先輩の中でも白銀先輩とは結構親しくしているつもりだったんですけど……」
「っそ、そうなの!? ちょ、マドンナちゃんガード固っ!」
 ショックだとばかりに大袈裟なリアクションを取る白銀先輩。
 ガードがどうのと言われても、そうしたことを意識した事がない私としては、半ば言いがかり的な印象を受けなくもないわけで。
 とりあえず、曖昧に返事をしておくことにした。
「そうでしょうか……」
「そーだよ? いやまあ、マドンナちゃん付きのナイト君達は本当に鉄壁だけどさあ」
「それって、錫也と哉太のことですか?」
「うん。その二人だけじゃないけどね」
 言われて、私が思い当たったのは一人だけだった。錫也と哉太ともう一人、私の大切な幼なじみ。
「羊くんもですね」
「彼以外にもいるでしょーが。この部屋にもさ、エジソン君に番長に一樹が……って、あれはナイトっていうかただのオヤジか」
「それ、一樹会長が聞いたら泣いて怒りますよ」
「いーよ、一樹なんて泣かせちゃうくらいでちょうどいいんです! 男泣かせの俺! かっこわるっ! ていうか気持ち悪っ」
 おえ、と口元を押さえる白銀先輩。
 その顔は本当に青ざめていて、もう演技なのか本気なのかがわからない。
 あいつとのうまい付き合い方は適当なところで受け流すことだ、全部聞いてたらキリがないからな、といつだったかに会長からもらったアドバイスが思い出される。
 けれど、さすがにここまで青ざめている人を前にスルーするというのは難しかった。
「えっと……大丈夫ですか?」
「うぇっぷ。全然大丈夫じゃない……おのれ一樹……不在のくせに俺をここまで苦しめるとは!」
 そう、今この生徒会室には、私と白銀先輩の二人しかいなかった。
 生徒会役員ではない先輩が我が物顔でここに居るのは別段珍しいことでも何でもなく、わりと日常的な光景の一つだったりする。
 今日はたまたまみんなが出払っている時にやってきて、なんだ一樹いないのか、ちょっと待たせてもらってもいい?と聞かれ、了承した結果が今の状況だった。
「うー、ぎぼぢわる」
「白銀先輩、辛かったらソファ(そこ)で横になっててください」
「うう……そうさせてもらおっかなあ……ね、そしたら、マドンナちゃん膝枕してくれる?」
 真っ青な顔で、ゴーグル越しでもわかるくらいものすごい期待が滲み出ている眼差しを向けられてしまった。
 何というか、あからさますぎていっそ清々しい。
「まだ仕事が残ってるので、そこのクッションで我慢してください」
「えー、じゃあいい。俺はどんなに辛くても横になんかなってやんないもんね! マドンナちゃんとの距離をキュッと縮めるまでは! そのほっそい腰みたく!」
「……白銀先輩にセクハラされましたって、後でみんなに報告していいですか?」
「ちょっ、それはないよマドンナちゃ~ん……今のはほんの、ほーんのジョークだよジョーク! 変態が言ってるからちょっと変態っぽくなってるだけであって、至って普通の冗談だよ今のは!」
「でも、セクハラ発言であることには変わりないですよね」
「うっ、そこに気付くとは……さすがはマドンナちゃんだ。……わかった。俺も変態だ。覚悟を決めたよ。――さあマドンナちゃん、罪深き咎人のこの変態をどうぞ好きにしてちょうだい!」
「じゃあ、今すぐみんなにメールします」
「それだけはやめてえええええ」
 白銀先輩がどんどん話を混ぜっ返していくので、何だかキリがなくなってきた。

 

 

#「happy lot」

「そういえばさ、みんなで羊を数えたの、覚えてる?」
 そろそろ寝ようかという段になって、先に布団に入った彼女へと問いかけた。
「もちろん、覚えてるよ。すごく楽しかったなあ。月の話とかたくさんして……」
「そうそう。それで、誰が一番早くマドンナちゃんを寝かせるかの勝負になって……結局引き分けだったけど」
 あれは今思い出してもかなり残念な流れだったりする。
 あの日に思いを馳せつつ、俺はがくりと肩を落としてみせた。
「はあ。俺が優勝して、マドンナちゃんを独占するつもりだったのになあ」
「だって、あの時の桜士郎君、変な声で数えるんだもの」
「なっ……俺のあの渾身のセクシーボイスを変な声だなんてっ、マドンナちゃんは正直すぎるっ」
 わっ、と両手で顔を覆う女々しい仕草をしてみせると、くすくすと笑われた。
 こんなしょうもない冗談にも付き合ってくれる彼女にじんわりとした安堵を覚えつつ、自分も布団に入った。
「ねえマドンナちゃん。今夜あたり、どう?」
「どう、って?」
「だからあ、――また、羊を数えてあげようか?」
 素早く彼女の耳元へ口を寄せて、吐息を吹きかけるようにして、必殺のセクスィーなボイスで囁いた。
 ひ、と小さな悲鳴が聞こえた次の瞬間、
「っい、いいです!」
 容赦なく思いっきり押し返された。
「え~マドンナちゃあん、そんな遠慮しなくても」
「間に合ってます」
 ぴしゃりと言い切られてしまっては、大人しく引き下がるしかない。
「今日のマドンナちゃん冷たい」
「桜士郎君が変な声を出すからです」
「また変な声って言った! うう、俺自信なくしちゃうなあ」
 いじけたフリをして、枕に顔を埋める。いや、フリというか本当にガックリしてたりするんだけど。
(ぶっちゃけ結構イケてると思ってたんだけど……実は、マドンナちゃん的には気持ち悪いとか耳障りとかそういう感じだったりするのかなあ……ううっ)
 地味にショックを受けているところへ、彼女がぼそぼそと呟くのが聞こえてきた。
「……その、桜士郎君の声、骨に響くっていうか……心臓に悪いんです」
 思わず枕から顔を上げると、ちょうど言い終えたばかりの彼女と目が合った。
 しまった、とばかりに彼女の顔がひくついている。
「っそ、それってつまり、――俺の声があまりにもセクスィーすぎて困るってこと!?」
「そ、そんなこと言ってないです!」
「でっ、でも今のそういうことだよね!?」
 わりとリアルに自信を喪失しかけていた俺は、必死すぎるくらいに彼女に追いすがった。
 めちゃくちゃ気まずそうに目を逸らしつつ、彼女は観念したように言った。
「……桜士郎君がそう思いたいなら、そ、それでもいいです……」
 ちょっと引っかかる言い方ではあったけれど、細かいことは気にしない! 俺に都合がいいように解釈して後ろはなるべく向かない! それが俺の良いところ! 多分!
「やったああ! そっかあ、俺の声もまだまだ捨てたもんじゃないってことだね!? よし、じゃあ早速マドンナちゃんを魅惑のセクシーボイスでメロメロに――」
「しなくていいです!」
 すかさず拒否されてしまった。しょんぼり、と口に出してガックリしてみせる俺。
 いやまあ、今のは結構悪ノリしてた部分があるので、ほぼ冗談ではあったのだけれど。
(……昔に比べると、マドンナちゃんのツッコミも容赦なくなったよねえ)
 なんてしみじみしていると、彼女はまた目を逸らしながら、ぽそぽそと口を動かした。
「そんなことしなくたって、私は桜士郎君にメロメロなのに」
 いやそれ、聞こえてる。聞こえちゃってますよマドンナちゃん! それともあれ、むしろ聞かせようと思って言ってる!? 言っちゃってるの!?
(くぅっ、どっちにしても可愛いっ)
「――マドンナちゃん!」
「はっ、はい?」
「キスしていい? っていうか、するね」
「えっ、ちょ――」
 マドンナちゃんの天然攻撃にメロメロにされた俺は、衝動のままに彼女の唇を塞いだ。
 最初はじたじたともがくような抵抗があったけれど、それもすぐに大人しくなる。
 ひとしきり彼女の咥内を味わってから、ゆっくりと顔を離す。
「……ごめん。つい。マドンナちゃんが可愛すぎて」
「もう……」
 恥ずかしそうに俯いて、桜士郎君のバカ、なんて言ってくる。



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サンプルにははしゃいでるおーしろーしかいませんが例によって大体がしょっぱい話です。
バッドエンド話はサイトにアップしてるものの再録です。

  • Category 同人誌情報
  • Date 2012/06/17
  • By 実月
  • stsk桜月