meganebu

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caring hands

A5/44P/400円
郁月合同誌

 

風邪ひいた水嶋と(琥太にぃと有季姉さんと)月子、という一つの話を漫画と小説で。
仲村(漫画):水嶋パート / 実月(小説):月子パート でお送りします。

本文サンプルは続きから。

 

 

☆実月(小説)





 一限目の講義が終わり二限目の教室へ移動しながら、私は時間を確認しようと鞄から携帯を取り出した。
 ぱちりとフリップを開くと、液晶画面に着信メッセージが表示されている。
 普段、この時間帯に電話がかかってくることは少ない。
 一体誰からだろうと履歴を表示させて、私は思わず相手の名前を読み上げてしまった。
「……星月先生?」
 最新の着信履歴に残されていたのは、予想外すぎる人物の名前だった。留守電にメッセージは残されていないので、緊急の用事というわけではないのかもしれない。
 けれど、学園を卒業して三年も経った自分に、学園の理事長兼保険医であるその人から直接電話がかかってくるなんて、よほどのことがあったに違いなかった。
 素早く通話ボタンを押し、携帯を耳に押し当てる。
(もしかしなくても、郁のこと……かな)
 無機質なコール音が繰り返される度に、不安が少しずつ広がっていく。
 星月先生は理事長と保険医を兼業しているんだから、忙しいに決まっている。もしかしたら昼寝に忙しいのかもしれないけれど、それは夜眠る暇もなく仕事をしているからだ(と、思う)。だから電話にすぐ出ないのも当然だろうし、先程の着信だって多忙の合間を縫ってかけてきてくれたかもしれなかった。
(どうしよう……私の方も、もうすぐ二限目が始まっちゃうし)
 歩いているうちに、次の講義が行われる教室棟まで来てしまった。
 仕方がない。あと一分待ってみて出なかったら講義の後にかけ直そう。
 そう決めて、入り口の柱に背を預けた時だった。
『――はい』
「星月先生!」
 たまりにたまった不安をぶつけるように、電話口の相手を呼んだ。対する星月先生からは、いつものマイペースな口調が返ってくる。
『おお、夜久。悪いな。今、平気か?』
「はい」
 相手からは見えるはずないのに、それでもこくりと大きく頷きながら、
「それで、あの……何か、あったんですか? その、郁に」
 星月先生の言葉を待ちきれず、自分から尋ねた。
『何だ、察しがいいな。……実はな』
 途端、星月先生の口調がどこか重苦しいものへと変化した。
 ぶつけきったはずの不安が一気に膨らんで、きゅっと胸の奥、というか胃が締められたようになる。
 実は――どうしたっていうんですか。
 先を促すのが怖くて、言葉が出せない。
 その間は実際にはほんの数秒だったろうに、私には本当に長く感じられた。
 やがて、ふう、と電話口から小さくため息が聞こえて。
『――郁が、風邪をひいてな』
「……――え?」
 何を言われたのかがよくわからなくて、疑問符付きで聞き返す。
 今星月先生は何と言ったんだっけ。
 ええと、そう、風邪。風邪って聞こえたような。
「風邪……です、か?」
 信じられないような気持ちで復唱すると、ああそうだとあっさりした肯定が返された。
「あ、あのっ、何かあったんじゃないんですか?」
『何かって……だから、郁が風邪をひいたんだ。まあ症状は大したことはないんだが、俺は今日午後から出張でな。日曜まで戻らない』
「は、はあ」
 話がさっぱり見えないまま、私はとりあえず相槌を打つしかできない。けれど、ふと気付いたことがあった。
「あ、あの、星月先生」
『ん? 何だ』
「今日って、天文部の合宿があるんじゃないでしょうか。……郁が、それの手伝いをするとかって」
 一昨日の夜に電話した時、この週末はちょっと忙しくなりそうだと、郁はそう言っていた。
 何かあるのと聞いてみたら、天文部の合宿に駆り出されてねと面倒そうにぼやいて――けれど、合宿の内容について説明する郁の口調は何だか楽しそうで。
 夜通し星空を観察するという話だったので、私も同じ時間に空を見てみるね、と約束して。
 昨日は昼間にメールが届いたきり連絡がなかったけれど、合宿の準備で忙しいのかなと思っておやすみなさいとメールを打って、それきりで。
『ああ、それなら、代理で直獅が出ることになったから問題ない』
「そう……なんですか」
 口では面倒だとか言ってたけれど、何だかんだで、郁は合宿のこと楽しみにしてたんじゃないかって気がする。
 どうしよう。お見舞いとか、行ったら迷惑かな。
『ただ、そのおかげで郁の様子を見れる奴がいなくてな。……それで、もし夜久さえよければ、様子を見に来てもらえないか』
「え?」
『まあ、熱が高いってだけでただの風邪だし、他の教員に頼んだっていいんだけどな。だが、男に様子見に来てもらうよりは、夜久に来てもらった方がいいだろう? 郁にとっては特に』
「行きます!」
 反射的に、それも力一杯答えてしまった。
 すると、電話の向こうから唖然とした雰囲気が伝わってきて――私は慌てて言い直した。
「あ、あの、今日の講義は午前だけなので、午後から行きます」
『そうか、悪いな。助かるよ。じゃあ、直獅に話をしとくから、こっちに着いたら直獅の指示に従ってくれ』
「はい」
 それじゃあまた、と電話を切ろうとして、待った、と星月先生が話を続けてきた。
『マスクだけは必ずしてくるように。それで、郁の部屋に入ったら絶対に外すんじゃないぞ』
「は、はい」
『元生徒を看病に呼んで、風邪を土産に帰すわけにもいかんからな』
「わかりました。帰ったら、うがいと手洗いも必ずします」
『よろしい。じゃあな。悪いが……郁のこと、頼んだぞ』
「はい」
 ピ、とボタンを押して通話を終える。
 携帯に表示された時計を見ると、あと一分で講義が始まるところだった。
「あっ、急がないと」
 ばたばたと走って教室へ向かう。
 幸い、まだ教授は来ていない。
 私は空いている席に着くと、急いでメールを打ち始めた。



☆仲村(漫画)




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メガネルート後の話だから郁月本、と言い張ってみたりなどしていない。

  • Category 同人誌情報
  • Date 2011/12/03
  • By 実月
  • stsk郁月