亡霊のよすが
A6(文庫サイズ)/54P/400円
ルーエア小説本(18禁)
成人向けの内容を含むため、未成年の方への販売・閲覧は禁止いたします。
実月個人誌。(表紙:仲村)
灰鷹のサイケデリカ、ルーガスED後のルーガスさんとエアルさんのはじめて物語。
全体的にコメディ寄りで色気はまったくありません。クールで格好良いルーガスさんもいません。
ゲーム本編のシリアスな雰囲気ともかけ離れているので、何が来ようと笑って許せる人向けです。
本文サンプルは続きから。
◆「亡霊のよすが」本文サンプル
一年に一度だけ外に出ることを許されたその日が、この街の一番賑やかな日であることは、私にとっての救いなのではないかと思う。
世間では死んだことになっている私は、亡霊と言っても差し支えない。そうだ、本物の亡霊とダンスをしたのもこのマスカレードの日だったっけ。
あの時はまさか私自身が亡霊になろうとは思いもしなかったけれど。
(……でも、なってみるとそこまで悪いものじゃないのかな)
だってきちんと食事が出る。寝る場所もある。ただこの部屋から出ることが出来ないだけで、他に制約はない。そして、年に一度だけ外にも出れる。
明日の食事を心配することもなく、女の身体には若干きつい労働だってしなくていい。なんて恵まれているのだろう。
そうだ、私は恵まれている。
鷹の親子それぞれが、その身や心を削り取って、魔女であった私を滅ぼし、私という命を生かしてくれた。これが恵まれていなくてなんだというのか。
(まあ、それはともかくとして……)
少し前から、この部屋にも街の賑わいが伝わってきている。
今日は私がここの住人になって二度目のマスカレードだ。ウイッグとドレスは日の高いうちから装備済み。あとはただ、彼が迎えに来てくれるのを待つだけでいい。
ふと、まるで囚われの姫を助けに来る王子みたいだな、と馬鹿げたことを思った。
以前退屈しのぎになればと渡された本の中に、そんな話があった気がする。
(王子か……ルーガス王子、ねえ)
ぼんやりと本の挿絵を思い出し、絵の中の王子が着ていたものを頭の中で着せ替えてみる。
「……ぷっ」
正直に言わせてもらうと、全く似合っていなかった。
柄ではないというより、単純に王子の服の色味がルーガスに合わないというのが大きいのだけれど。
(でも、ティからしたらそうだったのかもしれない)
兄を慕う彼女の目には、彼が王子のように映っていた可能性は大だ。
では、自分はどうなのだろう。
私の認識する「王子」の格好が似合わないことはわかったが、他の面ではどうか。
(うーん……王子、って感じはしないかなあ)
清廉潔白で折り目正しい、由緒ある血筋の止ん事無い身分の者。光と影でいうなら、確実に光の中に生きる存在。
これから私を迎えに来てくれるその人は、どちらかというなら影に属するように思う。
彼は守る物のために手段は選ばない。その「選ばない」という残酷なまでの強さは、彼の二人目の父親が教え込んだものだ。
前当主の意志を継いだ、鷹の一族の主。それが今のルーガスだ。
そして、二世代に渡る当主たちの意思により、私は今も生き続けている。
(……ていうかそもそも、私の方こそ姫でもなんでもないわけだし)
街の便利屋で、一時は街の英雄となり、そして魔女として滅びた私。
こんな奇妙な経歴を持つ姫なんて聞いたことがない。
(まあ……格好だけなら、それっぽくはあるかもしれないけど)
ドレスのスカート部分を軽くつまんでみる。
滑らかな生地は、一撫でしただけで上等なものだとわかった。意匠も実に細かく、全体的に派手ではないものの、艶やかな印象を受ける。
去年と同じく、彼が用意してくれたものだ。
「……」
ちら、と窓の方を見やる。
外の雰囲気からしてマスカレードはもう始まっているようだし、開催の宣言は終わっているはずだ。
今頃は、当主としての挨拶回りや見回りに忙しくしているのかもしれない。
やや落ち着かない心地を持て余し、小さく息を吐いたそのときだった。
ノックの後に、閉ざされていた入口が開く。待ちわびたその人が姿を見せた。
「すまない。遅くなった」
去年も聞いたその言葉に、私も同じに首を振る。
(中略)
「あの、ルーガス。確認しておきたいことがあるんだけど」
「なんだ」
顔を寄せてきていたルーガスは、今度は大人しく動きを止めてくれた。
「これ、付けたままの方がいい、……のかな」
長い栗色の髪を指し示す。
私としては外してしまった方が楽というか、後でウイッグの手入れが手間になりそうだなとは思うものの、もしルーガスがこっちの見た目の方がいいというなら、それに従おうかと思ったのだ。
(……こっちの方が女らしく見えるかもしれないし)
一応、この部屋で過ごすようになってから髪を伸ばしてみてはいるけれど、どうにも伸びが緩やかで、まだこのウイッグほどの長さはなかった。
「すぐ取れるものなのか」
「うん、まあ」
「なら、取ってもらえるか」
言って、ルーガスが再び身体を起こす。私も起き上がると、そそくさとウイッグを外しにかかった。
(てっきり、そのままでいいとか言われると思ったのに)
外したウイッグを軽くまとめ、贈られたドレスが入っていた袋に入れようとする。しかしそれもルーガスがやってしまった。彼の方が袋を取りやすいという理由で。
そうして再び押し倒され、今度こそルーガスに覆い被さられた。
すぐに口が塞がれる。私はウイッグを外したぼさぼさの髪を直させてすらもらえず、ひたすらに酸素を奪い尽くされた。
やがてぐったりとシーツに沈んだ私の視界に、ドレスにかかるルーガスの手が映る。
「っ、だ、ダメだ!」
反射的に身体が動く。
おかげで、ドレスの胸元をずりおとそうとする手をどうにか押さえ込むことが出来た。
「……なにがダメなんだ」
「べ、別に、脱がさなくてもいいだろ」
「ドレスが皺になると思うが。それに多分汚れる」
汚れるってなんだ。
なんとなく突っ込んだら負けという予感がしたので触れずにおく。
「俺は、お前が欲しいと言ったはずだ」
「……見ても楽しくないだろ」
そうだ。だってこのドレスの下には、あるはずのものがないんだから。少し膨らんで見えるのはドレスの構造だとか、詰め物代わりの下着によるものだし。
「楽しいかどうかは俺が決める」
ドレスを押さえる私の手に、ルーガスのそれが重なる。
ゆっくりと力がかかっていき、あっさりと力負けした私の手が取り払われ、ドレスの胸元が下着ごと一気に引き落とされる。
ひやりと、外気に触れた皮膚が僅かに粟立った。
「……っ」
見られている。それも正面から、なんの遠慮もなく。
自分で言うのも虚しいだけなのだが、とにもかくにもそこはなだらかだった。
起伏らしい起伏はない。女性らしさの象徴ともいえる柔らかで弾力のある膨らみは、どんなに見つめたってここにはない。
「……」
さっきからルーガスは一言も発していない。
あまりにもあまりな平坦ぶりを目の当たりにして言葉もないといった様子だ。
だから言ったではないか、楽しくなんてないと。
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察していただけたかとは思いますが、こんな感じで終始残念な雰囲気が漂うはじめて話です。