meganebu

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birthday wishes

学園サイケデリカ設定で緋影誕生日話。
諸々を好き勝手に捏造三昧しているのでご注意下さい。

 

 

 読んでいた本から顔を上げると、案の定妹は眠りの世界に落ちてしまっていた。
 大晦日の今日、彼女は朝から大掃除だと張り切って家中をピカピカにしただけでなく、仕事の都合で両親の戻りが明日になることもあり、年始の準備についてもしっかりと整えきった。
 人より丈夫ではない小さな身体を一日中酷使してきたのだ。疲れない方がおかしいし、そもそもだいぶ無理をしたのだろうとも思う。
 それでも、久し振りに会えるからと張り切る気持ちを押さえつけるわけにもいかない。なので、自分がやる方が効率が良いこと――例えば高い所の掃除であるとか、荷物の多い買い出しなど――は先んじてこちらがこなしていった。
 結果、こうして無事に新年を迎えることが出来そうなのだが。
「……」
 時計を確認すると、二十三時半を回ったところだった。
(……今年も叶わなかったな)
 妹は年末になると必ず「今年こそ除夜の鐘を聞く」と意気込むのだが、残念ながら今年も聞けず仕舞いに終わるようだ。
 炬燵を出て、眠る彼女をそっと抱き上げる。小柄なので重くはないが、起こさないよう慎重に運ぶのはそれなりに気を遣った。
 部屋まで運び、ベッドに寝かせる。一日中働いていたこともあってか、彼女は一度も目覚めることなく熟睡していた。
(お休み。良い夢を)
 声には出さずそう告げて、妹の部屋を後にする。
 居間に戻り、テレビを付けた。歌番組が終了し、各地の初詣の中継が始まっている。
 炬燵に入ってそれを眺めていると、やがて日付が変わった。
 あけましておめでとう。テレビの中で交わされる挨拶を自分が口にするのは、明日起きて妹と顔を合わせたときだろう。
 仕事の関係で一年のうちの大半を海外で過ごす両親が、家族揃って年越しを迎えたことはほんの数回しかない。それでも今年は明日の昼には帰ってくるらしいのでかなりまともな方だ。三が日が終わってようやく顔を見せる年もあった程である。
(さて……)
 これ以上起きていてもすることは特にない。明日は妹が早起きをしてお節や雑煮を作り始めるだろうし、自分もさっさと寝てしまうことにしよう。
 家電の電源を落とし、戸締まりを確認してから自室に戻る。
 そうして寝間着に着替えようとして、机の上に置いていた携帯がちかちかと点滅していることに気がついた。メールが届いているらしい。
 まさか都合が着かなくなった、という両親からの連絡だろうかと急いで携帯を手に取ると、
「……五通?」
 画面には新着メールの数が五件ある旨が表示されていた。
 急いでいて連続して送ってしまったのか、それとも迷惑メールの類か――とにかくボタンを押下しメールの一覧画面を出してみる。
 まだ読んでいないものを届いた順に表示するよう設定してもらった画面の一番上には、見慣れた差出人の名前があった。
(湊戸さん?)
 その件名は――『ハッピーニューイヤー&バースデー!』。
 見れば、その後に続く四通も全て同じような件名で、差出人も彼女同様見慣れさせられてしまった四名だった。
 わけがわからぬまま、時刻的に一番最初――日付が変わってすぐ――に届いていたメールを開く。
 あけましておめでとう、と時候の挨拶から始まり、件名と同じ意味の文言が繰り返される。最後に、今年もよろしくね、と締めくくられたそのメールには、一枚の画像が添付されていた。
 振袖を着た彼女と、それを囲むようにしている男子が四名。メールの差出人全員がそこに写っていた。
 残りのメールも、大体彼女のメールとほぼ同様の内容が、各人の性格が表われた文章で綴られていた。
「……まったく」
 律儀なものだ、と思う。
 初詣の最中に、わざわざ日付が変わってからメールを送り付けてくるとは。それも全員揃ってだ。
(内容が同じなら、誰か一人が代表で送れば済む話だろう)
 だがそう言えば、きっと彼らはあれこれと反論をしてくることだろう。主にアキと、そして彼女が。さらに言うなら、実際に彼らが言いそうな内容までも容易に想像出来てしまう。
 昨年転校してきてから半年ほど。それだけの間に、随分と彼らに毒されたものだ。
 返信するべきかとも思うが、時間が時間だ。年始の挨拶も兼ねるのだし、寝て起きた後でも構わないだろう。
 携帯を充電器にセットしてから、改めて寝間着に着替える。ベッドへ横になり、部屋の明かりを落とした。
(……ハッピーバースデー、か)
 目を覚ませば、起き出した妹から同じように祝いの言葉が告げられるだろう。家を空けがちな両親からその言葉を貰うのはさらに後になる。
 それは本当に毎度の事なので、特に気にしたこともなかった。
(誕生日なんて、そんな取り立てて騒ぐようなものでもないだろう)
 もちろん妹のものであれば話は別だが――自身の誕生日など、大した思い入れもない。
 そういえば、最初に自分の誕生日を聞いてきたのはアキだった。
 それも転校してきて間もない頃にしつこく聞かれ、教える義理はないだろうと拒否すれば、教えてくんないなら職員室に忍び込んで調べてくるなどと馬鹿なことを言い出す始末。付き合い切れず、正直に答えてやったのだが。
(その結果がこれか……)
 実は、彼らの初詣には自分も誘われてはいたのだ。しかし、妹を一人にするわけにもいかないし、そもそも夜中に学生だけで出歩くというのも感心しない。話を持ちかけてきた彼女には、正直に理由を告げて断りを入れた。
 すると、兄妹だけで年越しをするのかと顔を曇らせたので、隠すことでもないかと両親の予定についても話した。
 ようやく表情を和らげた彼女は、それじゃ仕方ないねと残念そうに言った後、こう続けてきた。
「一緒に初詣に行けたら、年が明けると同時に皆でお祝い出来るかなって思ったんだけど……」
 その提案に価値を見出せなかった自分は、適当な相槌を打って話を終わりにしたのだ。――そう、あの子にならばともかく、あいつらから祝われたところでどうということはないはずで。
(まあ……悪くはない、かもしれないが……)
 じわりと胸中に広がる何かには気がつかなかったふりをして、しっかりと目を閉じる。
 そうして、彼らへ返すべきメールの内容を考えていると、いつの間にか眠ってしまっていた。
 翌朝、顔を合わせた妹からなにか良い夢でも見たのかと聞かれる羽目になるとも知らずに。



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緋影っちさんお誕生日おめでとうございます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(泣き崩れながら