meganebu

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僕にだってできるんです。

A5/36P/400円
千こは合同誌

 

千里×こはる本です。 
漫画(仲村)と小説(実月)で1本ずつ描(書)いてます。

 

本文サンプルは続きから。

 

 

☆仲村(漫画)

 

 

 

☆実月(小説)

 

(本文途中から)



 怒って部屋を出て行った感じではなかったですし、きっと朝になれば部屋に来てくれるに違いない。
 僕はそう高をくくって部屋に引き籠もり続けました。
 けれど翌朝、こはるさんは中々やって来ませんでした。
 寝坊とか体調を崩したとか、昨日のことで実はすごく怒っているとか――――僕は布団の中で悶々とさせられました。
 いつもなら準備を終えて食堂に向かおうか、という頃になってようやく、部屋の鍵が開く音が聞こえました。
 さらに、彼女にしては珍しくばたばたと階段を駆け上がる音が続きます。
(ほっ、良かった……随分と急いでるみたいですし、やっぱり寝坊ですかね。……はっ、まさか僕の寝顔が見られなくなるから急いでるなんてことは)
 そもそもこの「交代で起こしに行く約束」は、こはるさんが僕の寝顔を見たいがために締結されたようなもので。
(……ありうる……)
 一人で勝手にげんなりしていると、いつもより乱暴に部屋のドアが開かれました。
 正直かなり複雑な心地になっていた僕は、もうこはるさんが声をかけてくる前に起きてしまおうと思ったものの、
「千里くん、起きて下さい千里くん!」
 興奮気味の声と同時、布団を被ったままの身体がゆさゆさと揺すられました。それもかなり激しく、力一杯に。
「ちょ……お、起きてます、起きてますから! わかりましたから止めて下さい!」
 たまらず悲鳴をあげた僕は、布団から逃げるように這い出ました。
「あ。す、すみません……つい」
「つい、って……だいたい何なんですか、今の乱暴な起こし方……まさか、また結賀さんにでも要らぬ知識を植え付けられたんじゃないでしょうね」
「え? 駆くんからは特に何も聞いてませんが……でもその、すみません。千里くんに今すぐお伝えしなければと思ったら、焦ってしまって」
「……? 僕に伝えたいことがあるんですか?」
「はい! 朗報、というやつです!」
 ぐっ、と両手を握って強調してくる様はどう見ても昨日の再現です。本当にありがとうございました。
(……何なんですかね、このそこはかとない嫌な予感は)
「朗報、ですか。それは一体……」
「千里くん。わたしの家に行きましょう!」
 一瞬、いえ、三秒くらい時が止まった気がしました。
「……は?」
 フリーズから回復した僕の思考は、ものすごい早さで回転を始めました。
(い……家って、こはるさんの家? そ、それってどういう……確か、こはるさんは一人で暮らしていたんですよね……そこに僕を招くということはつまり、二人きり……ってななな何を考えてるんですか僕は、違う、僕は不純なあの人たちとは違う、違いますから!)
「わたしの家、わたし以外は誰も住んでいませんでしたし、周りにも何もありませんから、すごく静かですよ。きっと千里くんにも気に入っていただけるんじゃないかと思います」
「き、気に入るとかそんな、あなたの家なんだから気に入らないわけが……でなくて、だ、だいたい、何で急にそんなこと言い出すんですか。それに、今は兵器の回収とかもあるんだし、それどころじゃないでしょ……」
「安心して下さい。ちゃんと正宗さんにお願いして、許可をもらってきました」
 『正宗さんにお願い』。
 何だかものすごく卑猥な響きにしか聞こえないんですけど、気のせいですかね。
「……いい年してむっつりなのも程ほどにして欲しいですよねあの人」
「むっつり?」
「そんなことより、遠矢さんに一人で会いに行ったんですか」
「はい。あ、でも、途中で一月さんがいらして」
「そこへさらに加賀見さんとか、余計に事態が悪化してるじゃないですか!」
「ええ? あのでも、一月さんは正宗さんを説得して下さって……」
 こういうとき、こはるさんの言い分は聞くだけ無意味です。僕は無遠慮に遮りつつ、堂々とお願いしました。
「いいですかこはるさん。前にも言った気がしますけど、一人でああいった不純な人達に会いに行かないで下さい」
「不純、ですか……? 千里くん、正宗さんも一月さんも、とてもいい人ですよ。わたしの無理なお願いも聞いて下さいましたし」
「それが不純だって言ってるんです。まったく……やっぱり、外に出る時は僕が一緒でないとダメですね」
 はぁ、と大きく溜め息をついてみせたものの、こはるさんは不思議そうに首を傾げるばかりでした。
(わかってない。この人は本当わかってないです……)
「……あの、千里くん。その、わたしと二人なら、外に出てもいいんですよね? お仕事以外でも」
「ええ。そうでないなら出ません。それに、今の話を聞く限りあなた一人で外に出すのも危険すぎるみたいですし」
「はぁ……。あ、ではなくて、千里くん。正宗さんから、わたしと千里くんの二人で、わたしの家に行っても良いと許可をもらってきました。外に行きましょう、一緒に!」
 わかりますかね、このときの僕の心地。
 僕の心配なんてこれっぽっちも理解されないまま、壮大に方向性を取り違えた形で望みが叶えられてしまったという、嬉しくないわけないですけど素直に喜べない感。
 とはいえ、ここまでお膳立てしてくれたこはるさんの厚意を無碍にするのも何ですし、僕は渋々という体を装いつつ、その提案に乗ることにしたのです。


(中略)


「ねえ、こはるは一人で暮らしてたのよね」
「あ、はい」
「それじゃあ、あなたの家、誰も手入れとかしてないってことじゃない?」
「手入れ、ですか?」
「掃除とか、誰もしてないってことでしょ? あなたがここに来てからそれなりに経つし、閉め切っていたとしても部屋の中に埃は溜まるものよ」
「あっ、確かに……そうですよね。ということは、まずはちゃんとお掃除しないと……」
 それから、こはるさんはまだ食べ終わっていない僕の所へやって来るなりこう宣ったのです。
「あの、千里くん! わたし、一足先に家へ行ってもいいでしょうか!」
「は? 先にって、どうしてですか」
「お掃除をしなくてはならないからです」
「掃除……いいですよ別に、僕は気にしません」
「ダメです。お客様をお招きするのにお掃除もしていないだなんて、そんなのは失礼すぎます」
  そこに、こはるさんの後を追ってきた久我さんと不知火さんが加わりました。
「ちょっとこはる。掃除するのはいいけど、一人で行くつもりなの?」
「もちろんです。お客様である千里くんにお掃除をさせるなんて、そんなこと出来ません」
「はぁ……こはる、問題はそこじゃないでしょ。あなた一人で行くこと自体が問題なの」
「一人で行くのは危険。何があるかわからない」
「あ……で、でも」
「だったら、私達が一緒に行くわよ。七海、あなたも掃除の手伝い、するわよね」
「うん。こはるさんの家にも行けるし」
 当事者の僕の意見は無視されたまま、どんどんと話だけが進んでいきます。焦った僕は制止を呼びかけようとしましたが、それより先に別なところから声がかかりました。
「まぁまぁ、七海ちゃんもお嬢さんも、落ち着いて考えようよ」
「一月? 何よ、急に割り込んできて」
 加賀見さんは食堂の隅っこで、話し込んでいる久我さんを待っていたようでした。というか、ちゃっかり盗み聞きしてたんですねこの人。……まぁ、僕も人のことは言えませんけど。
「いやぁほら、何もお嬢さんたちが行くこともないんじゃないかなーって」
「どうしてよ。この子一人じゃ心配じゃない」
「だからさ、そこは普通に千里ちゃんに行ってもらえばいいんじゃない?」
「それは……そうかもしれないけど」
 じろり、と久我さんが僕を睨みます。うう、何ですかその信用ならない、みたいな目つきは。
「俺からしたら、女の子達だけで行く、っていうのも危険だと思うけどなぁ」
「……どういう意味よ」
 久我さんの目が素早く、さらに眼光を鋭くさせて加賀見さんへ向けられました。
 でも、当の加賀見さんは軽く肩を竦めただけでした。
「確かにお嬢さんの能力は強力だし、七海ちゃんも強いってことは理解してるよ。でもさ、やっぱり女の子だけで行かせるっていうのは反対。理由は、……この前あっくんが言ってくれた通り」
 そこで突然、グワァン、と派手な音が響き渡りました。
 見ると、調理場で片付けをしていた宿吏さんが、取り落としたらしい中華鍋を拾い上げているところでした。
「まぁ俺としてはさ、今回のことはこはるちゃんが千里ちゃんのためを思ってした提案なんだし、他の人間が邪魔しちゃいけないと思うんだよね」
 何事もなかったかのように加賀見さんが後を続けると、久我さんはうっ、と言葉を詰まらせました。
「ね? こはるちゃんは千里ちゃんを静かな場所に案内したい。だったら、最初から二人で行って、二人でやることやって、それで帰ってくればいいだけのことじゃない?」
 ぶほっ、と今度は盛大に吹き出す音がしました。
「お……おい加賀見! お前な」
 片付けを終えたらしい宿吏さんは、加賀見さんへ大股で歩み寄ると、いきなり胸倉を掴み上げたのです。
「ちょっと、何怒ってるのあっくん。ていうか、今の俺の発言から何想像したの? 俺は、二人がやりたいように過ごしてきたらいい、って意味で言っただけだよ?」
「て、てめぇ……紛らわしい言い方すんな!」
 妙に顔を赤くして叫んでいる宿吏さんを見て、こはるさんが不思議そうに首を傾げました。
「? 紛らわしい……?」
「こはるさん、そこは深く考えない方がいいところです。たぶん。汚らわしい大人の会話なんて聞き流しましょう」
「はぁ……」
 僕はそっとこはるさんの耳を両手で塞ぎつつ、これ以上加賀見さんたちを見ないよう方向を変えさせました。
「だっ、誰が汚らわ……おい、俺まで一緒にすんな!」
「大丈夫。暁人はどちらかというと毛皮らしい。もふもふ……」
「お前はお前で何想像してやがる……」
 騒がしい外野は気にしないことにして、僕は溜め息混じりにこはるさんに告げました。
「いいですよ、こはるさん。僕も一緒に行って掃除します」
「千里くん……でも」
「これ以上この話を続けるとややこしくなるだけです。それに……その、あなたがわざわざ許可を取ってくれたんだし、そのくらいは手伝いますよ」
「……わたしが言い出したことなのに、すみません千里くん。でも、ありがとうございます」
 ――以上、回想終了。
 そういったわけで、僕はまずこの家の掃除をしなければならないようです。
「いいから早く済ませましょう。何からすればいいんですか」
「あっ、は、はい。では、とりあえず換気をしましょう。千里くん、あちらの窓を開けてもらえますか」
「わかりました」
 そうして窓や入口を全開にしてから、軽いはたきがけをした後に床の掃き掃除と続けます。
 さして広い家屋ではありませんし、何より二人がかりです。そう時間もかからずに終えることができました。
「ふぅ……だいたい終わりましたね」
「はい。ええと、台所はお夕飯を作る時にやるつもりなので、後は……あ、お風呂掃除がありましたね。でも、それはわたしがやります」
「そうですか。じゃあ、これで終わりですか?」
「そうですね……はっ、そうです、お布団を干さないと! 今日は天気も良いですし、これならきっとふかふかのお布団に――」
 うきうきと喋りながら布団を取りに行こうとしたらしいこはるさんは、何故か途中でぴたりと動きを止めました。
「……こはるさん?」
「せ、千里くん……」
 ゆっくりと振り向いたこはるさんは、またも申し訳なさそうな――というか既に涙目になりながら、ごめんなさいと大きく頭を下げてきたのです。
「今度は何なんです?」
「すみません、わたし全然気づかなくて……その、この家にはお布団が一つしかないんです」
「……は?」
「この家にお客様が泊まりに来るなんてこと、今まで一度もなかったので……もっとちゃんと考えて準備してから来るべきでした……」
 布団が一つしかない。
 蘇るのは当然、ペアになってすぐの頃にやらかした、こはるさんの部屋で一晩爆睡してしまったあの記憶です。
(ひ、一つしかない、ということは、つまり……い、一緒に寝る、しかない……ですよね)



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おおむねタイトル通りの話……のはず!