a little satisfaction
Debut恋愛ED後トキ春。それなりにネタバレしてますあとわりとしょっぱい短文です。
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閉ざされた扉の前に立ち、呼び鈴を鳴らす。
ほどなくして、扉の向こうに人の気配がした。続いて開錠の音。
そして、扉が開かれる。
「お疲れ様です、一ノ瀬さん」
出迎えてくれた笑顔に言い知れない安堵が広がるのを感じながら、言葉を返す。
「ええ。ただいま戻りました」
「あっ、どうぞ。今お茶を淹れますので!」
迎え入れられるままに中へと入った。ぱたぱたと忙しなくキッチンへ向かう背中を横目に、素早く扉を施錠する。無論、ドアチェーンをかけることも忘れない。
自分専用に用意してあったスリッパに足を通し、リビングへと入る。
仕事の途中だったのか、テーブルの上には何らかのメーカーロゴが入った封筒と、中に入っていたらしい数枚の資料が置かれていた。目に入ってきた情報だけで判断するなら、ゲームのBGM発注のようだった。
勝手に盗み見る趣味はないし、そもそも守秘義務というものがある。先程見えてしまった内容は忘れることにして、資料を裏返し、軽く揃える程度にして封筒の上に重ねておく。
どうせ彼女がお茶を淹れてきたら、このテーブルの上に置かれるのだ。であれば、今自分が片付けてしまっても、お茶を持ってきた彼女が片付けたとしても同じ事だろう。
ソファに腰を下ろし、軽く息をつく。
時刻はそろそろ日付をまたごうかというあたりで、明日の出発時刻から逆算し、後どのくらいここに滞在していられるかを考えた。
「お待たせしました」
やがて、彼女がティーセット一式を盆に乗せて戻ってきた。
端に寄せられた資料を見て、すみませんと謝りながら、テーブルの上に茶器を置いていく。
慣れた手つきで淹れられた紅茶を受け取り、一口飲んで、美味しいですねと告げた。ぱっと顔をほころばせた彼女に、隣に座るようソファの座面を指で叩いてやる。
「じ、じゃあ……失礼します」
ここは曲がりなりにも彼女の部屋だし、自分と彼女との関係を考えれば何を遠慮する必要があるのかと思う。
それでも、彼女はおずおずと遠慮がちにソファに座った。そうして自身のカップを口に運んでようやく、彼女は僅かながらほっとしたような表情を見せた。
(……)
彼女が必要以上に遠慮する理由はわかっている。わかっているからこそ、自分は何も言うことができない。
自分が何を言ったところで、それは払拭されるものではないからだ。おそらくは、彼女が彼女の中で割り切るべきことなのだろうと、そう思う。
彼女は――春歌は、自分に対して、罪悪感めいたものを抱いている。
一度やんわりと問い質した時には、「一緒にデビューしようと約束したのに、それを無視して事務所を辞めたこと」「そんな、裏切り行為にも等しいことをした自分を迎えに来てくれたこと」といった理由を聞くことができた。
それを言うなら、そもそもあの事件は自分の落ち度以外の何物でもなかったはずで、確かに彼女はこちらに何の相談もなく一人で全てを決めてしまっていたものの、偏にそれは自分のために行われたことだ。
何より彼女の英断は、映画関係者や事務所周りに対しても、被害を最小限に抑えうるもののはずだった。だからこそ、早乙女さんも彼女の申し出を受け入れたに違いない――自分はそう思っている。
「ところで、作業の方はどうですか?」
「あっ、はい。おかげさまで順調で……今のところスケジュール通りって感じです」
「それは何より。……もちろん、無理などはしていませんね?」
「はい。ちゃんと夜のうちに寝て、朝のうちに起きてます」
「よろしい」
彼女が抱いている罪悪感は何も自分に対してだけではない。
事務所やこれまで世話になった取引先についても、多かれ少なかれそういったものを感じているようだった。
なので、戻ってきたばかりの頃、彼女はとにかく無茶をしがちだった。いや、無茶をする前に逐一止めてはいたが、止めなければどこまででも無茶な頑張りを続けていたように思う。
頑張らないといけない気がして……と、彼女は何度かそう零した。そのたびに、「君が無茶をして倒れたら、今度はどれほどの迷惑がかかると思いますか」と脅 迫めいた言葉を繰り返した。その地道な努力が実ったようで、最近の彼女はそれなりに人並みの睡眠時間と生活リズムを以て日々を送っている。
中身を飲み干したカップを置き、彼女が飲み終わるのを待つ。結局、彼女は三分の一ほど中身を残して、カップをソーサーの上に戻した。
「……春歌」
膝の上に重ねられた手――その細い手首をゆるく掴み、そっと自分の方へと引いた。
彼女がこちらを向いてもなお、手首を引き続けたことで、それなりに意図は伝わったらしい。ただし、彼女はそのまま引き寄せられたりはせず、ゆっくりとソファから立ち上がりこちらの前に立った。
「ぁ、あの……」
掴んだままのそれを、もう一度だけ、軽く引いた。
それだけで、後は何もしない。ただ彼女を見つめて――彼女の手首を捕らえた手を、じっと離さずにいるだけだ。
力はほとんど入れていない。振り払おうとすれば簡単にできる。
したくないなら、する必要はない。
暗にそう伝える形で、次第に頬の赤味を増加させていく彼女の様を観察し続ける。
やがて覚悟を決めたのか、彼女が動きを再開した。まるで油の切れかかったブリキのロボットのように、どうにもぎこちない。
それでも、ソファに乗り上げた彼女は、こちらの膝にまたがるようにして座った。
これでいいですか、と弱々しく意思を伝えてくる彼女の瞳に応えるべく、掴んだままの手をあっさりと離す。今度はその手で、よくできました、とばかりに頭を撫でてやった。
「……」
頬を染め、恥ずかしそうに目を伏せる彼女の、その名前を呼ぶ。
「春歌」
「……はい。一ノ瀬さん」
するり、と彼女の髪を撫でつけるようにして、頭に置いていた手を滑り落とした。そのまま、両の手をソファの座面へ置く。
そうして、膝の上で座ったまま、緊張ばかりを高めているらしい彼女の瞳を覗き込んで、告げる。
「名前で呼んでいただけますか」
えっ、と彼女は声をあげた。それから、ほんの少しの逡巡の後、戸惑いをまったく隠さないまま、彼女が口を開く。
「と……トキヤくん」
「もう一度」
「と、トキヤくん」
「今度はどもらずに」
「――トキヤくん!」
間髪入れずダメ出しをしたせいか、彼女は力一杯に叫んでくれた。
本人もそんな大きな声になるとは思っていなかったようで、叫んだ後にあわあわと慌て始めた。
「ええ。よくできました。――春歌」
両腕で、彼女を掻き抱く。ちょうど、彼女の顔が肩口にくるような状態で、ぎゅっとその温もりを確かめる。
――ああ、彼女はここにいる。
「……もう一度、いいですか」
何よりも大切な、誰にも譲れない夢を抱き締めたまま――けれど、これが夢でないことを実感したくて、懇願する。
「……トキヤくん」
耳元で囁かれた言葉は、紛れもなく現実で。
二度と手放してはならないと、もう何度目かもわからない誓いを立てる他になく。
「春歌」
腕の中の存在が、僅かに擦り寄るように身動いだ。
今はただそれだけでも、この心を満たすには十分なように思えた。
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でぶーの二人がもはやちゅーよりすごいこととか何もしてなさそうとしか見えなかった上にEDから受けた印象的にあの後どうやっていちょいちょさせたらいいのかわからんくなってとりあえず思ったこと吐き出そうと書き殴ってみたはいいものの何気なくメモリアルを再生してみたらイッチーが感感俺俺めいた何かを言い出してて全力で吹いていやあれなんかしれっとハイレベルな真似をされてたんだけど無駄に悩んでた私どうしたら!!?!! とひどい動揺に襲われたりしましたが現在の私(の脳髄)は元気です(妄想猛々しい的な意味で)。
ていうかそもそもはトキヤくん呼びしてくれなかったから呼ばせたいだけだったはずがどうしてこうなった……。