アルレシャの結ぶ先
A5/44P/400円
哉月合同誌
哉太×月子でシリアスだったりいちゃこらだったり。
仲村:漫画 / 実月:小説 でお送りします。
素敵ゲストに、カゼマカセのかずさ。様をお迎えしています。
本文サンプルは続きから。
☆仲村(漫画)
☆実月(小説)
#「favorite trick」(学生哉月)
「あっ、哉太!」
仮装した生徒が夜闇に紛れる中、幼なじみの姿を見つけて声をかける。
哉太はすぐ気付いてくれたみたいで、軽く腕を掲げてから駆け寄ってきてくれた。
「よう! そんじゃーまずは……Trick or Treat!」
本日お決まりの文句と共に、がおー、と襲い掛かるような仕草。
今日は星月学園のハロウィンパーティー。生徒会主催行事の一つで、学生も先生も揃って仮装をして参加している。
哉太からは、今年は狼男をやるとは聞いていたけれど、実際に見るのは今が初めてだった。
全身をグレーの毛皮の衣装に身を包み、手足にはそれぞれ獣っぽいグローブとブーツが装着されている。そして頭には、大きく口を開いた狼の顔が乗っかっていた。
「すごい。狼男って言うから、もっと全身着ぐるみっぽいやつかと思ってたのに」
手を伸ばし、どこか愛嬌のある顔をした狼の頭に触れてみる。ぬいぐるみみたいな毛皮の手触りは思った以上に心地良い。
そうやって何度も撫で付けていたら、いつまでやってんだと狼の頭が逃げていった。
「ったく、今年も気合い入ってるって言っただろ? 着ぐるみとか、んなネタっぽいことするかよ。直獅センセじゃあるまいし」
「あ、今の先生に言っちゃおうかな」
「別に、言ってくれちゃっても構わねーけど? あー、でも今は止めとけ」
「何で?」
「さっき星見酒だーとか騒いでたからな。きっと今頃出来上がってる。近寄ったら絶対絡まれんぞ。……っつーか、早く寄越せって」
哉太の獣の手が、私の持っている篭を示す。
「あ、そうだった」
「ったく、肝心なこと忘れてんじゃねーよ」
私は布を被せた篭の中へと手を入れて、ごそごそと探った。
けれど、何の手応えもない。
「……あれ?」
「どした?」
急いで布を取ってみると、中には何も入っていない。
「ごめん、哉太。終わっちゃったみたい」
「終わっちゃったって……ば、バカお前! 何で早く気付かないんだよ!」
空っぽの篭を見せた途端、哉太は急に怒り出した。
「そう言われても、さっき一気に殺到されたから……」
というか、お菓子がもらえなかったぐらいでそんな怒らなくてもいいのに。
「ああもう、いいからこっちこい!」
「え、ちょっ――」
右手にはめた獣のグローブを素早く外すと、哉太は私の手を強く掴んで走り出した。
#「rare case」(旦那哉月)
ピッ、カシャ――聞き慣れた電子音が聞こえた気がして、勝手に意識が浮上した。
「んあ……?」
「あ。ごめん、起こしちゃった」
開けた視界には、見覚えのあるデジカメを手にした月子がすまなさそうな表情を浮かべている。
(あー……?)
まだ半分くらい寝ている頭で、状況を整理してみる。
ここは俺達の家のリビング。俺はソファでなく床に座った状態で、ソファの座面を枕に寝ていたらしい。
そして月子は俺の隣で、同じく床に座り込んでいる。
(夕飯食って、そんで……風呂沸かすつって、待ってるうちに寝てたのか……って)
「おい、それ……まさか、俺の寝顔を撮ったのか?」
「うん」
「うんって……あのな、んなもん撮ってどーすんだよ」
「いいじゃない、撮ってみたかったんだもん。だって、哉太の寝顔がすっごく可愛らしかったから」
なんて、無邪気に告げてくる月子。
その声色に人をからかうような何かが混じってるってのは、誰が聞いたってわかる。
もちろん、幼なじみで、その上こいつの旦那でもある俺には嫌ってくらいバレバレだ。
「バーカ」
月子の眼前に手を突き出し、何もない空間をデコピンの要領で弾いてみせる。
「だいたい、男が可愛いなんて言われても嬉しくねえっつの。それにな、本人の許可なく写真を撮るなんて、肖像権の侵害だぞ」
わかってるのか? と得意げに月子を見返すと。
「哉太だって前に私の寝顔撮ってたじゃない」
「あ、あれは……」
からかい返してやろうと思ったのに、痛いところを突かれた。
以前月子の寝顔を激写したのは、きっかけは仕返しじみていたとはいえ、俺なりに思うところあっての行為だった。
(……でも、改めて思い返してみると結構恥ずかしいこと言ってないか、俺? つーか、これもう一回説明し直すのとかマジ恥ずかしすぎる!)
「……わーったよ、ったく」
下手に蒸し返されても困るので、仕方なく折れてやる。
すると、月子はにこにこしながら続けてきた。
「それに、哉太が言ったんじゃない」
「あ? 何を」
「写真を撮るのに上達する一番のコツは、自分の好きなものを撮ることだって」
言って、ふわりと微笑む月子。
(っば……こいつ今自分がどんだけ恥ずかしいこと言ってるかわかってねーだろ絶対!)
月子が持っているデジカメは、俺が学生時代に愛用していたものだ。写真を撮ることを本職にしている今は――天体撮影に使うわけではないけれど――もっと高性能なやつを使ってる。
で、まあ使わなくなったとはいえ壊れたわけでもないし、愛着だってある。だからきちんと整備だけはしておいて、引き出しの奥にしまっておいたのだ。
それを、この間片付けしてた時に月子が見つけて、ひとしきり懐かしがった後にこう言ったんだ。
「哉太、私に写真の撮り方を教えて。このデジカメで」
最初、俺は写真が撮りたいなら新しいのを買ってやるって言った。何しろ学生時代に買ったやつだから、画質とか手ブレ補正とか……まあとにかく今時の機種と比べると、色々機能がしょぼいからな。
だってのに、月子はこのデジカメがいいと譲らなかった。
「哉太が使ってたのを使いたいの」
理由を聞いてみたらコレだ。こんなの、了解するしかねーし。
そんなわけで、俺は月子に写真の撮り方をレクチャーしてやったわけなんだが。
月子は大抵のことはそれなりにこなすけど、不器用なところは死ぬほど不器用だ。主に料理とか料理とか料理とかな。
いや今はだいぶマシになってきてるぞ? 一応な。人が食えるモノにはなってるわけだし。
……って、話が逸れた。
まあ結果として、月子の写真の腕は良くもないが悪くもない、平々凡々ってことがわかった。
そしたらある時、
「哉太がこれで撮った写真はすごくキレイだったのにな……」
なんて己の写真の腕を嘆くもんだから。
俺はついつい言ってしまったわけだ。自分の経験則に基づくアドバイスなんぞを。
具体的には、さっき月子が言った台詞を、だ。――と。
「……哉太、顔が赤いよ?」
からかうようなその声に、俺は一気に回想から引き戻された。
(誰のせいだ誰の!)
つーか、上目遣いされたってそんなニヤニヤされてたんじゃ全っ然ときめかないからな! 本当に! 可愛いけど!
「うるせ。つーか、月子が俺のことを好きなのはよーくわかった。いいか、そこでちょっと待ってろ」
「え。哉太?」
奪われかけている主導権を取り戻すべく、俺は自分の部屋へと小走りで向かった。
そうして、机の引き出しをがさがさと漁る。
「確かこのへんに……お、あったあった」
目当てのものを発掘し、それを装備した俺はいそいそとリビングへ足を向けた。
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二人して「哉太さんマジかっけーっすパネェっす!」ってなりながら作った本です。