meganebu

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artful cunning

ノルン+ノネットでロンルートグッドED後ロン七。普通にネタバレです。

 

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 市ノ瀬さんが来てくれたその夜、もう寝ようということになり寝室のドアを開けた。
 灯りを点けると、暗闇に沈んでいた室内がよく見えるようになった。昼のうちに整えておいたベッドのシーツと布団が乱れ気味なのは、あの人が昼寝をしたせいだろう。
 ふらっと姿を消したかと思えば昼寝をしている、その生活スタイルは今も変わることがない。
「!」
 胸の奥にじわりとした何かを感じたあたりで、突然ふわりと身体が浮いた。もがく暇もなく数歩の距離を運ばれて、よいしょと荷物よろしくベッドの上へと下ろされる。
「ちょっ……んぅ」
 文句も言わせてもらえなかった。塞がれた唇は易々と開かされて、彼の舌の侵入を許してしまう。
 こうなってしまってはもうどうにもならない。どんなに抵抗したところで、私の力では彼に敵わない。物理的な意味で。
 それでも、好き放題されるがまま、というのも悔しくて、できる限りは抵抗を試みる。
 あっという間に貪り尽くされる酸素は鼻で呼吸すればなんとか補えることを覚えたし、咥内を好き勝手に蹂躙する舌に自分のそれで対抗することも、少しずつだけれどできるようになってきている。それがうまく出来ているかどうかは別として。
 ただ、そんな私のなけなしの抵抗を彼が面白がっている節がある、ということも何となく理解している。
 つまるところ私は彼に遊ばれているのだろう。
 繰り返すようだけれど、それは悔しい。でも、そうすることで彼が満足しているというのなら、それでもいいか、とも思わなくもない。
(……苦しい)
 鼻呼吸で対抗するにも限度がある。それくらいに、彼のやり口はいつもしつこかった。
(でも、……嫌いじゃ、ない……)
 彼が自分を求めてくれているという、純然たる事実。
 それをダイレクトに感じることができるから、私は彼にやり込められてしまうことを、それほど嫌ってはいなかった。
「っは……」
 完全に酸素が不足し、全身からくたりと力が抜けてしまったあたりで、ようやく彼の口は私を解放してくれた。
「苦しかった?」
 眦に浮かんでしまった涙を指の腹で拭ってくれながら、そう問いかけられる。
「うん」
「ごめんね」
 言って、指で拭ったのとは反対側の目元に、彼の唇が落ちた。ちゅ、と小さな音が耳朶をくすぐる。
「……それも毎回言ってる」
「そうだっけ」
 決まりきったやりとりは、もはや儀式めいて繰り返されている。
 心の伴わない謝罪。あの頃の彼がしていたように、さっきの言葉もそうなのかもしれなかった。けれど、でも。
(……今のは、嫌いじゃない)
 嫌悪感を抱くことがないのは、あの時の自分がうまくやれたから、なのだろう。――少なくとも、今のところは。
「っ、ま、待って、ロン!」
「何?」
 彼――ロンは私の首筋に顔を埋めたまま、唇を押し当てていた箇所をべろりと舐めながら、短く聞き返してきた。
「あ、灯り、消してない……」
「うん、そうだね」
「……消して」
「んー」
 まともな返事の代わりに、強く首筋が吸い上げられた。痛みにも似た小さな熱さに、瞬間的に身体が強張る。
「ロン!!」
 ともすれば怯みそうに――いや、流されそうになった諸々を奮い立たせて、私は必死に彼の名を呼んだ。その必死さが伝わったのか、彼はゆっくりと顔を上げてくれた。
「うーん。暗いより明るい方がいいと思うんだけど」
「よくない」
「ほら、こんなによく見えるし」
「それがよくない!」
「どうして?」
 何だか以前にも似たようなやりとりをした気がしていた。
 その時は、明るいままでは嫌だということを繰り返し主張することで、どうにか折れてもらえた。
 だから同じように、私は明るいままでは良くない、という主張をもって抗戦する。
「は、恥ずかしいから」
「どうして?」
「見えるから」
「オレは見えた方がいいんだけど」
「私はよくない」
 いつまで経っても平行線だった。
 というより、そもそも最初の頃に「こういう時は灯りを消す」という約束の元に合意した記憶がある。
 けれど、それを言ったところで「そうだっけ」と返されるのは目に見えていた。
「昼間、食べさせてくれなかったじゃない」
 いつもとさして変わらない口調の中に、どこか不満そうなニュアンスが感じられた。
 そのことに気を取られて、一瞬、何を言われているのか理解が遅れた。
「……っ、だ、だから、私は食べられな――」
「食べられるよ。こうやって」
 素早く近付けられた顔に、私は思わず両目を閉じてしまった。
 また口づけされる、と思い咄嗟に唇を噛んで抵抗を試みる――けれど。
(っ!?)
 確かに、彼の唇が襲い掛かってきた。
 但し唇にではなく、私の鼻に。
 ロンは、私の鼻に噛み付いていた。もちろん本気じゃなくて、いわゆる甘噛みというレベルで。
「ろ、ロン!」
 慌てて手で押し返そうとすると、それを躱すようにさっとロンが半身を起こした。そして、唐突に話題を変える。
「……オレの義眼、作ってもらいに行くんだよね」
「え、……うん」
「でも、それはすぐにできるわけじゃなくて、まず作ってもらう人を探す所から始めなきゃならない」
「うん」
 否定する要素はどこにもないから、私はこくりと頷く。
「となるとこの先オレには、少なからず何も見えなくなる時期が発生する可能性が高い。そういうことだよね」
「……うん」
 彼の友達だというあの人が見つからなければ、最後まで。
 見つかったとしても、作ってもらえなければ同じこと。
 そして作ってもらえるとしても、作ること自体が難しいらしいので、完成するまでどれくらいかかるかもわからない。
「だったら、まだ見えているうちに、ちゃんと見ておかないと」
 こともなげに、ロンはそんなことを言ってきた。
(……ずるい)
 そんな風に言われたら、ダメだと言えなくなる。
「というわけで、見てもいい?」
「……もう見てる」
「それもそうだね」
 にっこりと笑ってから、彼の手が伸びてきた。当然のように服が脱がされて、下着まで剥ぎ取られる。
 改めて私を見下ろしてくる視線に、私は一気に羞恥心に支配され、両腕で身体を隠すようにした。
「そうされると、見えないんだけど」
「……」
 どう答えたらいいかわからなくて、私は口を噤んだ。
 ロンはそんな私を見つめたまま、うーん、とわざとらしく口で言ってから、そっと続けた。
「……本当言うと、そんなにはっきり見えてないんだ。だから、そんなに恥ずかしがることはないよ」
 さらりと、何でもないことのように言う。
 実際、彼にとっては何でもないことなのかもしれない。
(……やっぱり、ずるい)
 必死に隠している自分が馬鹿みたいだった。
 だからといって肝心なところを隠している腕を退ける気にはなれずに、私は小さく唇を噛む。
「ねえ。七海はさ、オレが見てるから、恥ずかしいんだよね」
「……うん」
「だったら、目隠しするのはどうかな。そうしたら、オレが見てるところを見なくて済むと思――」
「絶対に嫌」
 言い終わらないうちに拒絶した。
「あれ。いい案だと思ったのになあ」
「全然よくない」
 おかしいな、と首を傾げている彼に、呆れ気味に溜め息をついてから。
「……恥ずかしいのも嫌だけど、ロンの顔が見えないのはもっと嫌」
 私は小さく、本当に小さな声で呟いた。
 また何やら考え始めたらしい彼にはどうせ聞こえていないだろう、そう高を括って。
 とはいえ、顔が見えないような体勢でされることなんて、これまでにいくらでもあったことではあるのだけれど。
「っ!? や、やっ……!」
 自分の言ったこと自体も恥ずかしくて、軽く俯いてしまっていた私は、にゅっと伸びてきていた彼の手に気付けなかった。
 結果、身体を隠していた腕を力業で取り外され、シーツに縫い付けられる。
「ろ、ロン――」
「だったら、明るいままでいいよね」
 私の抗議を遮るように告げてきたロンは、再びにっこりと微笑んだ。
 その笑みに、私の中にあった戦意が一部分だけ喪失した。これはもはや勝ち目など存在しない試合なのだと、負けを認めるしかない。
「――オレも、七海の顔が見えた方がいいな」
「……っ」
 彼の言葉が嘘だ、とは言わないけれど。
 でもきっと、私の顔以外がよく見えることの方が楽しいくせに。
(……本当に、ずるい)
 両腕を手首のあたりでまとめて拘束され、もうろくに抵抗もさせてもらえないまま、私は落ちてきた口づけの優しさにゆっくりと力を抜いた。




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ロンルートをグッド→バッド→もう一つのEDの順でクリアしてどのエンド見てもほんぎゃらーすと悶え転げた結果ついカッとなってやった。反省はしていない。